学校法人武蔵野大学のプレスリリース
武蔵野大学薬学部薬学科(東京都西東京市)の田中 健一郎講師は株式会社伊藤園(社長:本庄大介 本社:東京都渋谷区)との共同研究で、緑茶に含まれるカテキン類の一種・エピガロカテキンガレート(以下、EGCG)に、大気汚染物質 PM2.5 によって引き起こされた肺傷害の予防効果があることを確認しました。(特許出願済)
【本件のポイント】
- いまだ確立されていない大気汚染による健康被害を予防する方法として、緑茶に含まれるカテキン類の一種・エピガロカテキンガレート(EGCG)が有効であることを発見
- Biomolecules 誌の Special Issue“Antioxidants in Food and Waste from the Agri-Food Industry”に論文採択
【背景】
世界の大気汚染による年間死者数 (約 880 万人)が喫煙による死者数 (約 720万人)を上回ったと推定され※2、大気汚染による健康被害を減らすことが大きな課題になっています。持続可能な開発目標 (SDGs3:すべての人に健康と福祉を)にも掲げられていまが、その予防法は確立されていないため、解決策を提案することは急務になっています。そこで田中講師と伊藤園は共同で、緑茶の主要成分である EGCG を用いて、大気汚染によって引き起こされた肺傷害に対してその有効性を明らかにすることを目的とした研究を実施しました。
● PM2.5について
大気中に存在する粒子状物資で、カドミウム・ 鉛・ ニッケルなどの有害金属、硫黄酸化物、窒素酸化物、揮発性有機化合物で構成されており、健康被害を誘発する原因物質と考えられている。PM2.5 は粒子径が非常に小さいため、肺の奥深くまで容易に到達し、酸化ストレスを介した肺胞上皮細胞の傷害や炎症反応 (マクロファージ、好中球の活性化)を誘導する。このため、最初にPM2.5 が到達する呼吸器 (気管支や肺)における保護因子を発見する事が出来れば、大気汚染による健康被害の予防法に繋がるのではないかと考えられる。
【研究内容】
■ 試験1. 大気粉塵に起因した急性肺傷害に対するEGCGの有効性
EGCGを腹腔内投与した1時間後に、大気粉塵を雄性ICRマウスに経気道投与しました。24時間後に肺胞洗浄液 (以下、BALF)を回収し、全炎症性細胞数、好中球※3数、タンパク量を測定しました。その結果、大気粉塵の投与により、BALF中の全炎症性細胞数、好中球数、タンパク量の増加が見られましたが、EGCGを投与することにより、濃度依存的にそれらの増加が抑制されました。
■ 試験2. 大気粉塵に起因した炎症性サイトカイン※4の発現に対するEGCGの有効性
試験1と同様、EGCGを腹腔内投与した1時間後に、大気粉塵を雄性ICRマウスに経気道投与しました。24時間後に肺組織を回収し、炎症反応の指標である炎症性サイトカインの発現量を解析しました。その結果、大気粉塵の投与により、肺組織中のTNF-α、IL-1β、IL−6、MIP-2などの炎症性サイトカインが増加しましたが、EGCGを投与することにより、それらの増加は抑制されました。
■ 試験3. 大気粉塵に起因した活性酸素(ROS)産生に対するEGCGの有効性
試験1、2と同様に、EGCGを腹腔内投与した1時間後に、大気粉塵を雄性ICRマウスに経気道投与しました。24時間後、L-012(化学発光試薬)を皮下投与し、肺組織を摘出した後、in vivo imaging system※5を用いて、炎症反応の主要因である活性酸素(以下、ROS)産生を解析しました。その結果、大気粉塵の投与により、肺組織中のROS産生が増加しましたが、EGCG を投与することにより、その増加が抑制されました。
■ 試験4. 大気粉塵に起因した好中球の炎症反応に対するEGCGの有効性
試験1-3と同様に、EGCGを腹腔内投与した1時間後に、大気粉塵を雄性ICRマウスに経気道投与しました。24時間後にBALFを回収し、好中球の炎症反応について解析しました。その結果、大気粉塵の投与により、好中球細胞外トラップ(NETs)の指標であるBALF中のシトルリン化ヒストンH3、好中球エラスターゼ、ミエロペルオキシダーゼの発現量が増加しましたが、EGCGを投与することにより、それらの増加が抑制されました。
【研究結果まとめ】
・ 大気粉塵をマウスに投与すると、肺の炎症性細胞数、炎症性サイトカイン量が増加しましたが、EGCGを事前に腹腔内に投与することで、これらの増加が抑制されました。
・ 大気粉塵をマウスに投与すると、肺の活性酸素量、及びそれに伴う好中球の炎症反応が増加しましたが、EGCG を事前に腹腔内に投与することで、これらの増加が抑制されました。
以上の結果から、EGCG が抗酸化作用を介して大気粉塵による肺の炎症反応を抑制することを確認し、EGCG を含有する緑茶が大気汚染による健康被害の予防法として有効であることが示唆されました。これらの効果は、飲料の殺菌工程で生じる EGCG の熱異性体であるガロカテキンガレート(以下、GCG)においても同様に確認されています。
【コメント】
■武蔵野大学 薬学部薬学科 講師 田中 健一郎
この度は株式会社伊藤園との共同研究において、大気汚染肺傷害に対するEGCG、及び GCG の有効性を明らかにすることが出来ました。共同研究者である株式会社伊藤園の皆様、本研究に携わって頂いた全ての方々にこの場をお借りして感謝申し上げます。今後も大気汚染による健康被害の予防法確立を目指した研究を継続して行い、一人でも多くの人の命を救えるような研究を実施したいと思います。
(※1)武蔵野大学調べ
(※2) Eur Heart J. 2019 May 21;40(20):1590-1596. doi: 10.1093/eurheartj/ehz135. Cardiovascular disease burden from ambient air pollution in Europe reassessed using novel hazard ratio functions
(※3) 白血球全体の約45~75%を占め、異物や病原体から体を守る防御機能を有するが、過剰な増加、および活性化によって宿主を攻撃する。また、好中球細胞外トラップ(NETs)は、炎症時に好中球から放出される網目状の構造物のこと。
(※4) 侵入した異物や病原体に応答して産生され、免疫細胞を刺激、動員、増殖させる働きを持つ低分子タンパク質の総称。
(※5) 動物の体内で発現する蛍光タンパク質や化学発光の情報を観察することが出来るCCDカメラ内蔵のイメージング装置のこと。
【論文について】
タイトル | Preventive Effect of Epigallocatechin Gallate, the Main Component of Green Tea, on Acute Lung Injury Caused by Air Pollutants. (大気汚染物質による急性肺傷害に対する緑茶主成分エピガロカテキンガレートの予防効果) |
著者 | Ken-Ichiro Tanaka, Shunsuke Nakaguchi, Sachie Shiota, Yuka Nakada, Kaho Oyama, Okina Sakakibara, Mikako Shimoda, Akio Sugimoto, Masaki Ichitani, Takanobu Takihara, Hitoshi Kinugasa and Masahiro Kawahara |
掲載誌 | Biomolecules(https://www.mdpi.com/journal/biomolecules) |
DOI | 10.3390/biom12091196 |
【関連リンク】
武蔵野大学薬学部薬学科:https://www.musashino-u.ac.jp/academics/faculty/pharmacy
株式会社伊藤園:https://www.itoen.co.jp/research
【武蔵野大学について】
1924年に仏教精神を根幹にした人格教育を理想に掲げ、武蔵野女子学院を設立。武蔵野女子大学を前身とし、2003年に武蔵野大学に名称変更。2004年の男女共学化以降、大学改革を推進し12学部20学科、13大学院研究科、通信教育部など学生数13,000人超の総合大学に発展。2019年に国内私立大学初のデータサイエンス学部を開設。2021年に国内初のアントレプレナーシップ学部を開設し、「AI活用」「SDGs」を必修科目とした全学共通基礎課程「武蔵野INITIAL」をスタートさせる。2023年には国内初のサステナビリティ学科を開設する。2024年の創立100周年とその先の2050年の未来に向けてクリエイティブな人材を育成するため、大学改革を進めている。
武蔵野大学HP:https://www.musashino-u.ac.jp