明治保有の乳酸菌OLL2712株が生体の恒常性に関わるオートファジーを誘導 腸管バリア機能を高めることを確認

meijiのプレスリリース

 株式会社 明治(代表取締役社長:松田 克也)および東京医科歯科大学 難治疾患研究所の清水 重臣教授らの研究グループは、明治保有の乳酸菌「Lactiplantibacillus plantarum(旧名Lactobacillus plantarum)OLL2712(以下、OLL2712株)」が、腸管上皮細胞であるCaco-2細胞※1を用いたモデル系において生体の恒常性に関わるオートファジーを誘導し、腸管バリア機能の一つである物理的バリア※2機能を高めることを確認しました。当研究成果は2023年6月7日に国際学術誌の「Nutrients」へ掲載されています。また、2023年6月27日~28日に開催された第27回腸内細菌学会学術集会にて発表しました。
【Watanabe-Y., Y., Gotou, A., Shimizu, S. & Sashihara, T. (2023). Lactiplantibacillus plantarum OLL2712 Induces Autophagy via MYD88 and Strengthens Tight Junction Integrity to Promote the Barrier Function in Intestinal Epithelial Cells. Nutrients, 15(12), 2655】
 
オートファジーとは、細胞内で不要になったタンパク質や侵入した細菌などを分解し、リサイクルして栄養素を生み出すことなどにより細胞内の恒常性を保つ重要な仕組みです。(模式図参照)
 


【細胞内でのオートファジーのプロセスの模式図】
 
【研究概要】
結果①:腸管上皮細胞においてオートファジーを誘導
 オートファジー検出試薬を用いて腸管上皮細胞におけるオートファジー誘導効果を確認したところ、OLL2712株を添加すると、添加なしの細胞に比べてオートファジーが活性化されました。
結果②:オートファジー誘導による腸管バリア機能強化作用を確認
 OLL2712株の刺激によりオートファジーを介して、腸管の物理的バリアとなる細胞同士を結合させるタイトジャンクション※3関連の遺伝子発現が増加し、異物のモデルである高分子物質の腸管透過量※4が抑制されることを確認しました。
 
【本研究の意義と今後の可能性】
 オートファジーはストレスや栄養不足により誘導されますが、オートファジーが正常に働かなくなることは糖尿病やガン、心血管疾患といったさまざまな病態に関わることが明らかになっています。また、加齢においてもオートファジーが低下することが知られています。
 一方、腸管は水分や栄養成分といった生命活動の維持に必要な物質を吸収する臓器であり、腸管には外来の病原細菌や有害物質といった異物から腸管組織を保護するための腸管バリア機能が備わっています。しかし、加齢や慢性炎症などで腸管バリア機能が低下した状態ではそうしたさまざまな異物が体内に入ってくる可能性があります。オートファジーを活性化すると、低下した腸管バリア機能が回復するという報告もあることから、腸管においてオートファジーの働きを高め、腸管バリア機能を高めることは健康維持に重要であるといえます。
 本研究によりOLL2712株が腸管上皮細胞におけるオートファジーを誘導し、腸管バリア機能を高めることが明らかになりました。OLL2712株においては、糖・脂質代謝改善効果を既に報告しており※5-7、本成果はそのメカニズムの一つである可能性があり、腸管を介してさまざまな疾病の予防・緩和に寄与すると考えられます。
 当社は、今後もさまざまな健康課題と向き合い、人々が健やかな毎日を過ごせる未来の実現に貢献してまいります。
 
※1 ヒト結腸癌由来の細胞で、未分化の状態では腸管上皮細胞であり、3週間培養することで単層の小腸上皮様細胞となる
※2 細胞間結合や粘液など、物理的に異物を体内に侵入させない働きをもつものを総称して物理的バリアと呼ぶ
※3 上皮細胞同士を密着させてさまざまな分子の通過を制限する細胞間結合の一つ
※4 細菌由来の毒素などの異物がどの程度腸管上皮細胞を透過するかの指標
※5 出典:Toshimitsu et al., J Dairy Sci, 99(2):933-946, 2016
※6 出典:Toshimitsu et al., Nutrients, 12(2):374, 2020
※7 出典:Toshimitsu et al., Curr Dev Nutr, 5(2):nzab006, 2021
 
発表内容
【演題名】
Lactiplantibacillus plantarum OLL2712の腸管上皮細胞におけるオートファジー活性誘導作用
 
【背景と目的】
 当社はこれまで、OLL2712株はBody Mass Index(BMI)が高めの方の腹部脂肪面積および空腹時血糖値を低下させる作用のほか、糖尿病予備軍の方の血中HbA1c濃度を低下させる効果を有することを明らかにしてきました。そのメカニズムとして、免疫細胞に作用して抗炎症効果を誘導していると考えてきましたが(図1)、OLL2712株を摂取した際に腸管上皮細胞に及ぼす影響は調べられていませんでした。そこで本研究では、メカニズムの一つとして腸管上皮細胞のオートファジー誘導効果の有無と腸管バリア機能への影響に着目し、評価しました。

 
1. OLL2712株の糖・脂質代謝改善効果誘導メカニズム
【方法ならびに結果】
1.オートファジー検出試薬を用いて、小腸上皮様細胞に分化誘導したCaco-2細胞においてOLL2712株はオートファジーを誘導することを確認しました(図2)。
2.小腸上皮様細胞に分化誘導したCaco-2細胞を用いて、タイトジャンクション関連タンパク質の遺伝子発現がOLL2712株によるオートファジー誘導を介して高まり、高分子物質の透過性も低下しました(図3)。このことから、OLL2712株はオートファジーを介して物理的バリア機能を強化していることが確認されました。
3.シグナル伝達因子MYD88※8の遺伝子発現を抑制すると、OLL2712株によるオートファジー誘導作用は消失しました。OLL2712株はMYD88を介してオートファジーを誘導していることが明らかになりました。
 
※8 細菌などを認識する受容体の下流に位置するシグナル伝達因子
 
【考察】
  以上の結果から、OLL2712株はCaco-2細胞においてシグナル伝達因子MYD88を介してオートファジーを誘導し、物理的バリアを高めることが明らかになりました。また、腸管においてオートファジーを活性化することは炎症抑制につながることも報告されており、OLL2712株に関する先行研究で明らかにしている抗炎症作用による糖・脂質代謝改善効果のメカニズムの一端となる可能性があると考えられます(図4)。
 

2. OLL2712によるCaco-2細胞におけるオートファジー誘導作用 A)蛍光顕微鏡での観察画像。オートファジーが誘導されると緑色に光る試薬を使用し、 オートファジー誘導効果について観察した。スケールバーは20 µm。
         (B)顕微鏡画像(A)を解析し、1細胞当たりの緑色蛍光の輝度を算出し、非刺激群との比で比較した。
 
 

         3. OLL2712によるオートファジーを介したバリア機能強化作用
          (A、B)小腸上皮様細胞に分化誘導したCaco-2細胞におけるタイトジャンクション関連遺伝子の発現量。
                         (C)透過した高分子物質の濃度比較。
         一般的に、タイトジャンクション関連遺伝子の発現が高まることで、腸管での高分子物質の透過性は低下する。
 
 

        図4. OLL2712株によるオートファジーを介した腸管バリア機能向上効果
               腸管上皮細胞においてOLL2712株によりオートファジーが誘導され、
タイトジャンクション関連遺伝子の発現が増加することで物理的バリア機能が強化され、
異物の侵入を抑制することでも炎症抑制および糖・脂質代謝改善に寄与することが考えられる。

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