学校法人明治大学のプレスリリース
イグ・ノーベル賞とは?
イグ・ノーベル賞(Ig Nobel Prize)は、ノーベル賞のパロディー(裏ノーベル賞)として「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」に対して贈られるものです。科学ユーモア雑誌「Annals of Improbable Research」の編集者マーク・エイブラハムズ氏が 1991 年に創設し運営されています。ノーベル賞と同じく複数の部門があり、毎年 5000 以上の研究や業績の中から選考されます。イグ・ノーベル賞を手渡すプレゼンターは、ノーベル賞受賞者が行っています。授賞式は2023年9月14日18時(アメリカ東部時間)にオンラインで行われ、1996 年にノーベル生理学・医学賞を受賞したピーター・ドハーティー氏によって授与されました。
受賞対象となった研究(論文)
今回のイグ・ノーベル賞(栄養学)の受賞は、宮下芳明教授と当時 明治大学大学院博士前期課程に所属していた中村裕美特任准教授が2011年に発表した論文「Augmented Gustation using Electricity」に対するものです。この論文は、微弱な電流を流すストロー・箸・フォークによって飲食物の味を変えて食体験の味覚を拡張するビジョンを掲げたものでした。この論文は、2021年にも、発表後10年間、多く引用され広くインパクトを与えた論文に与えられる「Lasting Impact Award」をAugmented Humans 2021で受賞しています。※1
宮下芳明教授のコメント
今回の受賞をとても光栄に思います。受賞対象論文は13年前に開発した技術に関するものですが、電気味覚技術や味覚メディア技術はその後、多方面に渡る発展と社会実装に至っています。そうした広がりや今後への期待が込められた受賞だと捉え、これからも研究を推進していきたいと思います。
宮下研究室で発展してきた電気味覚のこれまでの研究成果
宮下芳明教授はその後、味覚メディア技術の研究を推進してきました。まず、キリンホールディングス(株)との共同研究として、減塩食の味わいを増強させる電気刺激波形を開発しました。さらに、実際に減塩の食生活を行っている方を対象に臨床試験を実施した結果、減塩食を食べた際に感じる塩味が1.5倍程度に増強される効果を確認し、この技術を搭載した「エレキソルト」デバイスが、キリンホールディングス(株)から発売される予定です。※2
宮下研究室では電気味覚以外にも新たな「味覚メディア」を創出するための研究が進んでいる
宮下芳明教授は今回受賞対象となった「電気味覚」以外にも、味覚センサーの測定値に基づいて任意の味を再現する味覚ディスプレイTTTVなど、多くの味覚メディア技術を開発しており、「白ワインを赤ワインの味に変える※3」「カカオを異なる産地の(より高級な)味を変える※4」「毒キノコの味を安全に体験できるようにする※5」「甲殻アレルギーでも安全にカニの味を味わえるようにする※6」など、味覚の常識を塗り替える研究成果を多く発信※7しており、10月末に開催される国際学会では、「口臭を起こさずにニンニクを味わう方法 ※8」を発表する予定です。
TTTVの最新機となる「TTTV3」※7。このデバイスでは、「白ワインを赤ワインの味に変える※3」「カカオを異なる産地の(より高級な)味を変える※4」「毒キノコの味を安全に体験できるようにする※5」「甲殻アレルギーでも安全にカニの味を味わえるようにする※6」といったことのほかに、ChatGPTに代表されるLLMと連携することにより、料理名をマイクで話したり、料理の画像をウェブカメラで見せたりすると、味を推定して出力することも可能になった。
ニンニクの香りを発生させるデバイスを装着したフォーク。香りをコンピューターで制御する。TTTV3と組み合わせることで、ニンニクを使用しないペペロンチーノの食体験ができるなど、口臭を起こさずにニンニクを味わうことができる※8。
※1 関連ニュース
明治大学 総合数理学部2020年度ニュース
宮下芳明教授らが, Augmented HumansにおいてLasting Impact Awardを受賞
https://www.meiji.ac.jp/ims/news/2020/6t5h7p00003aguvp.html
※2 エレキソルトに関する研究
明治大学2022年4月11日プレスリリース
~減塩食をよりおいしく、「健康」課題の解決に向けた大きな一歩~ 世界初!電気刺激の活用で 塩味が約1.5倍に増強される効果を確認 —「味を調整できる食器」の開発につながる新技術—
https://www.meiji.ac.jp/koho/press/6t5h7p00003fh8kv.html
明治大学2022年9月7日プレスリリース
~おいしく生活習慣の改善!世界初の電流波形を搭載した新たな「エレキソルト」デバイス~ 電気の力で、減塩食の塩味を約1.5倍に増強するスプーン・お椀を開発 —2023年のデバイス発売を目指し、健康的な食を提案する2企業との共同実証実験を9月開始—
https://www.meiji.ac.jp/koho/press/mkmht0000001gs0t.html
明治大学2022年11月18日プレスリリース
明治大学 宮下芳明研究室とキリンが共同開発した電気味覚での塩味増強効果と、おいしさを我慢しない減塩手法の提案がInnovative Technologies2022を受賞
https://www.meiji.ac.jp/koho/press/mkmht0000001xxcw.html
共同研究先のキリンホールディングス(株)にいただいたお祝いメッセージ
https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2023/0915_01.html
※3 白ワインを赤ワインの味に変える研究
金珉志,村上崇斗,宮下芳明.TTTV3を用いたワインの味表現,エンタテインメントコンピューティング2023論文集,Vol.2023,pp.298-301,2023.
※4 カカオを異なる産地の(より高級な)味を変える研究
彭雪儿,深池美玖,笠原暢仁,村上崇斗,吉本健義,湊祥輝,富張瑠斗,宮下藏太,川田健晴,宮下芳明.産地の異なるカカオの味の違いを定量化し純物質で再現する手法,エンタテインメントコンピューティングシンポジウム論文集,Vol.2023, pp.390 – 393, 2023.
※5 毒キノコの味を安全に体験できるようにする研究
Homei Miyashita. 2022. Virtual eating experience of poisonous mushrooms using TTTV2. In Proceedings of the 28th ACM Symposium on Virtual Reality Software and Technology (VRST ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 81, 1–2.
https://doi.org/10.1145/3562939.3565668
※6 甲殻アレルギーでも安全にカニの味を味わえるようにする研究
Homei Miyashita. 2022. TTTV2 makes it possible for people with shellfish allergies to still enjoy the taste of crab virtually. In Proceedings of the 28th ACM Symposium on Virtual Reality Software and Technology (VRST ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 79, 1–2. https://doi.org/10.1145/3562939.3565669
※7 TTTV3に関する研究発表
明治大学2023年8月31日プレスリリース
AIに味を推定させ、産地の違いも再現する調味装置「TTTV3」を明治大学 総合数理学部 宮下芳明研究室が発表
https://www.meiji.ac.jp/koho/press/2023/mkmht000000j96ss.html
※8 口臭を起こさずにニンニクを味わう方法
Miku Fukaike, Homei Miyashita. 2023. How To Eat Garlic Without Causing Bad Breath. In Adjunct. Proceedings of the 36th annual ACM symposium on user interface software and technology (UIST ’23 Adjunct). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 1-2. (To appear)