アスタミューゼ株式会社のプレスリリース
著者:アスタミューゼ株式会社 田澤 俊介 博士(工学)/ 源 泰拓 博士(理学)
はじめに
ユニセフ(国連児童基金)など国連の5つの専門機関がまとめているレポート「世界の食料安全保障と栄養の現状」の2022年版(注1)によれば、2021年には8億2,800万人が飢餓の影響を受けていると報告されています。
注1:https://data.unicef.org/resources/sofi-2022
一方、先進国をふくむ世界各地では、多くの食材が日常的に廃棄されており、2021年だけで約25億トンの食品が無駄になったという「フードロス」が報告されています(注2)。
サーキュラーエコノミーは、製品や資源を廃棄物として処分せずに、持続可能に再利用し、リサイクルする経済モデルを指します。フードロスの削減とサーキュラーエコノミーは密接に結びついており、たとえば廃棄される食品を効果的に利用することは、飢餓の軽減にも貢献します。これレポートでは、食品に関するサーキュラーエコノミーに関する取り組みについて、アスタミューゼが独自に構築したデータベースに基づいて、スタートアップと研究プロジェクトの動向を紹介します。
「食」にかかわるサーキュラーエコノミーの市場概要
アスタミューゼでは、サーキュラーエコノミーのプロセスを「再利用、延命、再生」の3つに分類しています。食品のサーキュラーエコノミーでは「再利用」が難しい場合が多く、かわりに「延命」と「再生」が重要となります。
「延命」の観点では、食品の劣化を防ぎ、食材の寿命をのばすために、サプライチェーンの効率化や食品の消費期限管理が重要です。先進国では規格外品や消費&賞味期限切れの商品が廃棄されることが一般的ですが、途上国では収穫および貯蔵技術、物流システムの不備により、食品が無駄になることがあります。食品の「延命」には、生産物の品質管理技術、食品の安全検査技術、物流管理、包装技術、冷凍保存技術などが重要になります。
一方で、「再生」の観点では、廃棄物や食品くずを新たな製品や材料に変えるプロセスがサーキュラーエコノミーの一部です。これは食品廃棄物を新しい価値を持つ製品に変えるプロセスで、「アップサイクル」と呼ばれます。例えば、食品廃棄物を堆肥、資材、燃料などに活用することがあります。また、あまった食材を美味しい保存食品に加工することもアップサイクルの一例です。
食品のサーキュラーエコノミーの技術動向分析
アスタミューゼでは、世界中のグラント(科研費などの競争的研究資金)、特許、論文、スタートアップ企業情報など、イノベーションに関わる情報をデータベースとして保有しています。今回は食品のサーキュラーエコノミーに関する技術に焦点を当て、農産物、水産物、および畜産物の3分野についてグラントとスタートアップのデータを分析しました。
スタートアップの分析
まず、2012年以降に設立された農産物、水産物、畜産物分野のサーキュラーエコノミーに関するスタートアップ企業の動向を見てみましょう。図1では、各年の設立数と資金調達額が示されています。
設立数は2019年以降減少傾向にありますが、資金調達額は2018年から増加し、2021年には前年の約3倍と大幅に増加しています。図2は農産物、水産物、畜産物の3つの分野に分けて見たものです。農産物分野での資金調達が目立ちます。
この理由としては、「Misfits Market」というスタートアップ企業が2021年におこなった資金調達です。同社は、規格外の野菜などの流通に関わる事業で、約420万米ドルを調達しています。また、農産物・水産物・畜産物いずれの分野においても、調達額が多いスタートアップは「延命」プロセスに関連した事業者でした。サプライチェーンや物流関連が多く、続いて品質管理に関係する事業者が見られました。資金調達額上位のスタートアップをいくつか紹介します。
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スタートアップ事例 (農産物)
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会社名:Misfits Market
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所在国/創業年:アメリカ/ 2018年
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資金調達状況:527万米ドル (2019-2021年)
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事業概要:生産者から直接仕入れた規格外の農作物を割安で販売することで食品廃棄物を減少させるサブスクリプションサービス
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スタートアップ事例(水産物)
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会社名:Captain Fresh
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所在国/創業年:インド/ 2019年
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資金調達状況:147万米ドル(2020-2023年)
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事業概要:水産物の生産管理、物流、小売店における販売管理などサプライチェーン全般における効率化を行う企業
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スタートアップ事例(畜産物)
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会社名:WayCool
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所在国/創業年:インド/ 2015年
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資金調達状況:363万米ドル (2016-2022年)
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事業概要:生鮮食品、乳製品、生活必需品の加工、流通、調達によって食品ロスを削減するアグリテック企業
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グラントデータの分析
2012年以降のサーキュラーエコノミーに関する農産物、水産物、畜産物分野のグラントについて、国ごとの採択数と配賦額の動向を見ていきます。ただし、中国はグラントデータの開示状況が年によって異なり、実態を反映しているとはいいがたいため除外しています。
図3は各国の採択数の推移です。
2015年から2019年の間は日本とアメリカが1位と2位を争っており、そのあとにイギリス、ノルウェー、EUが続いていました。2020年に日本の件数が減少し、アメリカが件数を大きく伸ばしました。
図4は分野別の配賦金額推移です。配賦金額はプロジェクト期間で均等割りし、各年度に配分して値を集計しています。たとえば3年計画で3万米ドルのプロジェクトは、各年に1万米ドルを計上しています。
いずれの分野でも配賦額が増加しており、3分野すべてで2021年の配賦額は2012年の約2倍となっています。
農産物分野への配賦額が最も多く、水産物、畜産物分野は拮抗しています。配賦額上位の研究内容では、農産物は「再生」に関するグラントが多く見られます。その一方、水産物および畜産物では「再生」と「延命」に関するグラントが上位にあります。
農産物については、食品廃棄物を化粧品や燃料などへアップサイクルに関する研究が多く見られました。水産では、加工時の安全管理技術、養殖における品質管理技術などが見られます。畜産では、加工時の品質管理や廃棄物の有効活用に関する研究が上位に挙げられました。配賦額の高いグラントの事例をいくつか紹介いたします。
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グラント事例(農作物)
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タイトル:TERRITORIAL CIRCULAR SYSTEMIC SOLUTION FOR THE UPCYCLING OF RESIDUES FROM THE AGRIFOOD SECTOR
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機関・企業:ASOCIACION EMPRESARIAL DE INVESTIGACION CENTRO TECNOLOGICO DEL CALZADOY DEL PLASTICO DE LA REGION DE MURCIA(スペイン)
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採択年:2021年
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資金調達額:約1600万米ドル
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概要:食品廃棄物のアップサイクルを目指すプロジェクトで、食品廃棄物を機能性食品や化粧品材料に転用し、多層プラスチックのリサイクルなどを行う
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グラント事例(水産物)
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タイトル:Centre for Closed-containment Aquaculture (CtrlAQUA)
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機関・企業:NOFIMA AS(ノルウェー)
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採択年:2015年
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資金調達額:約1500万米ドル
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概要:サクラマスの幼魚の病気やストレスをセンサーや遺伝子マーカーを活用し予防する養殖システムに関する研究を行うプロジェクト
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グラント事例(畜産物)
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タイトル:DigiFoods – Digital Food Quality
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機関・企業:NOFIMA AS(ノルウェー)
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採択年:2020年
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資金調達額:約1000万米ドル
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概要:鶏肉やソーセージなどの品質をリアルタイムで測定するスマートセンサーに関する研究を行うプロジェクト
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まとめ
スタートアップは主に品質管理、サプライチェーンの効率化に焦点を当て、食材の寿命を延ばし、廃棄食品を減少させることに注力する会社が多くの資金を調達しています。一方で、グラントでは特に農業分野で、食品廃棄物の有効活用、すなわちアップサイクルに関する研究プロジェクトが多くの資金を集めています。このことは、今、収益化できているプロセスが「延命」であるのに対し、今後、伸びてくるのは「再生」プロセスにかかわる技術であることを示唆しています。
2020年5月にはアメリカのアップサイクルフード協会が食品廃棄物を活用した食品であるアップサイクル食品の定義を行っています(注3)。
注3:https://upfood.earth/food-upcycling-trends/
日本でも2022年にはアサヒグループのアサヒユウアス社が、ビール粕を用いたグラノーラを販売している(注4)ように、アップサイクル製品の動きがみられます。
注4:https://www.asahigroup-holdings.com/pressroom/2022/0810.html
このようなアップサイクル製品の動きが拡大し、未利用の食材や廃棄食材を有効活用する「再生」が今後ますます重要になるでしょう。
著者:アスタミューゼ株式会社 田澤 俊介 博士(工学)/ 源 泰拓 博士(理学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「サーキュラーエコノミー」に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。
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