幻の地鶏「土佐ジロー」で限界集落での生業創りに挑む。はたやま夢楽(むら)が営む御宿が開業2周年。【御宿「ジローのおうち」/高知県安芸市】

「土佐ジロー」の生産秘話や美味しい焼き方など、生産者からトリビアを聴きながら味わう地鶏の世界。生産者自らが土佐備長炭で、一切れずつ焼いて提供する1日2室限定の宿。高知の秘境で味わう絶品地鶏。

有限会社はたやま夢楽のプレスリリース

高知県の地鶏「土佐ジロー」炭火焼の皿鉢盛り。白子やトサカなどの希少部位も含め、部位ごとに生産者自らが焼き方を変えて、説明をしながら、手元の皿へ運んでゆく。

愛する故郷へ、丹精した地鶏肉を訪ね来てもらうための宿を

高知県安芸(あき)市から、渓谷沿いの険しい道を約40分辿った先に、1日2室限り(最大定員8名)の小さな宿があります。御宿「ジローのおうち」。高級地鶏としてメディア等でも多数紹介いただいてきた地鶏「土佐ジロー」をフルコースで、生産者自らがご提供しています。生産地でもあり、私たちが大好きな故郷・畑山の森の中で、ゆったりと過ごしていただきながら、土佐ジローと自然を楽しんでいただきたい、と土佐ジローを唯一、肉用として専門に育てている有限会社はたやま夢楽(むら)が2022年2月にオープンしました。

2室限りの小さな宿ですが、延べ1,700人の来泊者を迎えようとしています。国内はもちろん、シンガポールやスペイン等からも、わざわざ土佐ジローを求めて、高知の秘境とも言われる畑山へ訪ね来ていただいています。

”幻の地鶏”はたやま夢楽の土佐ジロー

「土佐ジロー」は、天然記念物「土佐地鶏♂」と、在来種「ロードアイランドレッド♀」の子どもです。はたやま夢楽では、土佐ジロー♂を生後0日から、大人になる120~150日まで、「鶏を鶏らしく」をモットーに育てています。普通の鶏肉の3倍以上の日数をかけても、体重はその半分の1.5㎏にしかならず、はたやま夢楽でしか生産されていないため、「日本一高い”幻の”地鶏」と言われることもあります。(採卵用の廃鶏・熟鶏♀も、土佐ジローとして販売されていますので、ご注意ください)

元気の良すぎる土佐ジローの運動能力に応える独自の鶏舎の建て方に加え、ごはんにもこだわり、高知や愛媛のお米や高知の魚の粉を日令に応じた組み合わせで与えています。こうして育った土佐ジローの肉は、旨味や香りが濃厚な一方で、とても澄んだ味わいとなっています。

靖一と土佐ジロー

「生まれ育った大好きな畑山で暮らしたい。人が暮らせる産業を生み出したい。」800人もの人が暮らした畑山から「まち」へ、急激に人が流出した時代がありました。はたやま夢楽の会長・小松靖一は、「むら」が捨て去られようとする中、畑山でこんな夢を描きました。大工を辞め、シシトウや柚子の栽培など、紆余曲折を経て、「土佐ジロー」と出会いました。畑山で生き残るため、一般的な養鶏とは一線を画す「鶏を鶏らしく育てる」ことに一生懸命になりました。土佐ジローの健康を気遣い、肉の旨味を引き出す育て方を追い求めました。

土佐ジローのご飯代や鶏舎の建設費を稼ぐため、「まち」でアルバイトもしました。苦労を苦労と感じるよりも、土佐ジローを美味しく育てることが楽しかった若かりし日々。こだわりは身を結び、土佐ジローの旨味は「まるでジビエ?!」と評されるまでになりました。

人口は20人にまで激減しましたが、土佐ジローを求めて畑山を訪れる人の往来は途絶えていません。

”土佐ジローと言えば小松さん””名人”と呼ばれるほどに土佐ジローと向き合い続けてきたはたやま夢楽会長の小松靖一。
土佐ジローや森の中での暮らしの楽しみを、SNS等のメディアで発信中。

土佐ジローの嫁

愛媛の漁村で生まれ育ち、都内の大学へ進学。田舎での一次産業での暮らしを夢見て各地を訪れる中で、畑山と出会う。愛媛での新聞記者を経て、「靖一さんの夢を一緒に叶えていきたい」と、2010年、仕事を辞め、押しかけ女房に…。
土佐ジローの健康や飼育環境に重きを置いているから、我が子にも、お客さんにも、胸を張って提供できる食材を創っている自負を持つ。ただ、肉質が一般的な鶏肉とはかけ離れているため、滅多な調理法では本来の旨味を引き出せず、通販等で悔しい思いをすることもあり、土佐ジローの表現法を模索している。2017年から社長として、土佐ジローを軸にしたり、畑山を舞台にしたイベントを企画している。

御宿「ジローのおうち」を産地に開業

はたやま夢楽では、2004年から安芸市の指定管理者として、畑山地区に食堂・宿「はたやま憩の家(畑山温泉憩の家)」を経営してきました。土佐ジローをメーンにした食事が好評で、年間8,000人近くが訪れた年もありました。土佐ジローをより深く知っていただこうと、フルコースをつくり、炭火で焼く際には、生産者である小松靖一か圭子が、必ず一切れずつ、部位ごとに焼き方を変えながら、一番美味しい状態で提供するようになりました。同時に、畑山のことも好きになっていただきたい、と、お客さんと共に過ごす時間を多く取れるよう予約営業を優先させ、年間3,000人ほどに利用者を絞りこんでいきました。

行政施設の老朽化等から、2022年2月に、はたやま憩の家から100mほどのところに、御宿「ジローのおうち」を、クラウドファンディングや銀行融資などを受けて建設。1日2室限りの小さな宿で、より土佐ジローに特化したもてなしを提供し始めました。

森の中にある”ぽつんと一軒宿”。1日2室限りの小さな宿で、土佐ジローを畑山の風景と共に味わっていただいています。

土佐ジローをお腹いっぱい楽しむ御宿

夕食の一番人気プランは、「土佐ジロー炭火焼コース」です。土佐ジローのガラで炊き上げた澄んだボーンブロススープで始まり、希少部位である白子(精巣)と鶏冠(トサカ)、ささみをスープで、しゃぶしゃぶにしてから、メーンの炭火焼に。地元・安芸市の土佐備長炭を熾し、もも肉やむね肉など10部位を一切れずつ焼いて、お皿へお出ししています。そして、土佐ジローの親子丼と、土佐ジローの卵アイスへと続く、土佐ジロー尽くしのコースで、お腹いっぱい楽しんでいただいています。

一番人気の土佐ジロー炭火焼コース
土佐ジローを一切れずつ焼いてお皿へお出しします

生産者が焼き上げる土佐ジロー

土佐ジローは、焼き加減で味わいが大きく異なってしまう繊細で気難しい鶏肉です。土佐ジローに向き合い続けている私たちが、必ず一巡りを焼かせていただいています。もも肉、むね肉、ささみといった皆が知っている部位でも、それぞれ焼き具合を変えながら、その部位に一番美味しい焼き加減で焼き上げ、それぞれのお皿にお運びしています。初めて食べる方も多い鶏冠や白子も、私たちが一番美味しいと考えている具合にてお出ししています。

土佐ジローの第一人者として、生産・加工・販売を手掛けてきた私たちが、土佐ジローの生産秘話や生態、美味しい食べ方などもお伝えしながら、お客さんが不思議に思う「なぜ、白子があるのか」「トサカが食べられるのか」といった疑問にもお答えしながら、焼かせていただいています。

まずは天日塩だけで味わっていただき、そして、自家製の柚子酢や柚子胡椒、土佐ジローの漬け卵、アヒージョにても楽しんでいただきます。一巡りを焼いた後は、席を退きます。お客さんだけで、のんびり味わっていただく時間も設けています。

食後は、満天の星空も。

ジローのおうちから眺める星空。Photo by 細木拓也氏。

ジローのおうちは、秘境とも言われる奥山にあります。街灯がほぼ皆無で、山に囲まれているため、たくさんの星を眺められるのも御宿の魅力の一つとなっています。

下弦の月から新月をはさみ、上弦の月ごろまでは、月光にあまり影響されず、星を楽しむことができます。天候により必ず見られるわけではありませんが、ご予約の際に、月暦も確認されると星も楽しめるかと思います。星を楽しんでいただけるよう宿には、懐中電灯やハンモック等もご用意しています。

透明度の高い川。天気によって色味が変わる。

川まで徒歩数分

ジローのおうちから、川までは歩いて数分。安芸川の最上流域にある畑山川は、透明度が高く、アユなどを見つけることもできます。夏には、川遊びを楽しむお客さんも多くいらっしゃいます。チェックイン後や早朝に、里をのんびり散歩される方も。自然を満喫いただいています。

2024年2月で開業2周年。

産地である畑山で、私たちが丹精する土佐ジローの本当の旨味を知っていただきたい、畑山のことを好きになってもらいたい、と始めた御宿「ジローのおうち」。1日2室限りで、1室1名でのご利用だと2名でも満室になってしまう小さな宿です。秘境とも呼べる畑山は、道が険しく、docomoの携帯電話が圏外でもあり、近くに観光地もない、土佐ジローと自然を楽しむための宿です。それでも、開業以降、全国各地から、また、海外からも、わざわざ足を運んでいただいています。

「美味しかった」「鶏肉の概念が変わった」と土佐ジローを喜んでいただいています。中には、知り合いに連れて来られた方で、鶏肉が嫌いな方がお見えになることもあります。そんな方にも「土佐ジローなら食べられる」「鶏肉とは別物」と、破顔一笑いただいたりしています。食の細い子どもさんが、親御さんの土佐ジローもねだることも多く、「普段は食べてくれないのに」と喜んでいただくことがあります。私たちが心を込めて育てる土佐ジローが、皆さんを笑顔にしてくれることが、生産者としての生き甲斐でもあり、畑山で宿を営む活力になっています。

畑山で土佐ジローと向き合いながら、皆さんのお越しをお待ちしております。

今、あなたにオススメ