松戸市のプレスリリース
※千葉県産農林水産物を主たる原料とする加工食品の中から、魅力的な「ちばの逸品」を発掘し、消費者にPRすることを目的として開催。
※本資料内の情報は、2024年5月15日 現在のものです。
ビスコッティに懸ける想い
「お店と出会ってくれた人たちを幸せにする仕事をしていきたい」と笑顔で話す、新松戸にあるビスコッティ専門店「Binasce」のオーナー・山本慎弥さん。山本さんは、いわゆる製菓学校出身の“菓子職人”ではなく、イタリアンのシェフでありながらイタリア菓子ビスコッティ専門店の代表という、異色の経歴の持ち主です。
おいしいものが好きで、小さい頃からコックの職業に興味があったという山本さんですが、大学進学の際、「料理人以外の道もあるかもしれない」と選択肢を広く持つため、早稲田大学に進学します。それでも、在学中に「やっぱり料理の道に進みたい」と決意を固めた山本さんは、大学在学中にパスタ店でバイトをしていたことや、当時はまだ現在のようにイタリアンがそこまで日本に浸透していなかったこともあり、イタリア料理の道に進むことを決めたそうです。その後イタリア・フィレンツェに渡り、現地で経験を積むお店を自身で探し歩きます。「いわゆる有名店よりも、現地の人々が普段食べている料理に魅力を感じていた」と言う山本さんは、自分の目で見て郷土料理などがメインのお店を選び、2年間本場で経験を重ねました。
2005年末に帰国し、日本のイタリアンレストランで働き始めた山本さん。友人や知人と会う際の手土産として、フィレンツェで気に入って覚えてきたというお手製のイタリア菓子「ビスコッティ」を振る舞うと、非常に好評で、その反応に手応えを感じます。ビスコッティはフィレンツェの伝統菓子で、「ビス」が「2度」、「コッティ」が「焼く」を意味する、その名の通り2回焼き上げて作るクッキー菓子です。食べてくれた人たちから、老若男女問わずリアクションが良かったこともあり「イタリア料理に固執しなくてもいいかもしれない」と思い始めたと同時に「甘いものはいつの時代も人の本能に訴える(山本さん)」という実感をもとに、ビジネスとしての伸びしろも見込んで、2014年、ビスコッティ専門店の創業を決めたと言います。
事業が軌道に乗るまではレストランの仕事と並行し、自宅の一室でビスコッティを製作する日々が続きました。約2年の月日を経て、2016年にビスコッティに専念。ネット通販やマルシェなどで販売していましたが、2020年10月に新松戸の自宅近くで実店舗をOPENしました。
独自の工夫
山本さんのこだわり。それは、創業時から変わらない「自分の“おいしい”という基準点を超えたものしか出さない」という信念。その中で、イタリアで主流のナッツ入りビスコッティだけでなく、Binasceの商品はオリジナル要素をふんだんに加えています。新しい味を開発する中で、お客様からのリクエストや意見を取り入れることもあるそうです。「自分だけでは考えつかないこともたくさんある」と柔軟な発想を持つ山本さん。「ビスコッティはとても固いものを想像する人が多いと思いますが、うちの商品は年齢問わず噛み砕きやすい固さにしたり、誰もが一口で食べやすいように小さめに作っています」と独自の工夫も教えてくれました。
また、イタリアではビスコッティと「ヴィンサント(デザートワイン)」の組み合わせが一般的だそうで、「本場と同じ楽しみ方もできるように、お店にもヴィンサントを置いてるんです」と伝統菓子を大切に思う、山本さんの粋な心遣いもお店に詰まっています。
「ビスケッピ」誕生秘話
今回金賞を受賞した「ビスケッピ」は、共通の友人を通して繋がった千葉県内のさつまいも農家・芝山農園と山本さんがタッグを組み、開発した焼き菓子です。
「規格外のさつまいもを活用した商品開発をしたい」という芝山農園の話を聞いた友人が山本さんを引き合わせてくれ、山本さんも「ぜひ挑戦したい!」とプロジェクトがスタートしました。「規格外品も味は良いことが多く、我々が手を加えることでその本来の価値を引き出すことは料理人の努め」と話す山本さん。せっかく開発するならと、趣旨と合う今回のコンテストに出品することを目標に据え、「コンテストにかなうものを」と製作を始めたそうです。
「ビスケッピ」は、焼き芋にした「紅あずま(香取市産)」と北海道産の小麦粉など、厳選素材を混ぜ合わせ、ビスコッティと同様に2度しっかりと焼きあげています。さつまいもをビスコッティにできるのか?というところからスタートし、最初の試作からブラッシュアップしていく中で、芝山農園から「芋けんぴのような見た目にできないか?」とアイディアをもらったという山本さん。「自分ひとりでは出てこなかった発想でした」と謙虚に話す山本さんは「自分の感性や自分が持っているものだけでは、なかなか新しいものは生まれない。他の人の意見も取り入れて作りたいと思っていました」とチームで取り組む楽しさを話してくれました。こうして「ビスコッティ+芋けんぴ=ビスケッピ」が誕生しました。
また、「ビスケッピは、いわゆる“さつまいも入りビスコッティ”ではないんです」と自信を持って言い切る山本さん。「さつまいもを食べた後と変わらない満足感を出すことをモットーに製作しました」と話すように、ビスケッピは原材料の半分近くまでさつまいもを使用し、ザクザクとした食感と、噛むほどに広がるさつまいもの風味が楽しめます。販売まで約5カ月間改良し続けたビスケッピ。コンテストで「すべての世代が笑顔になる逸品」と評価され、食べた人の心を満たすお菓子に仕上がりました。
「すべての世代にビスケッピを楽しんでもらいたい」という想いは、パッケージにも現れています。Binasceの、他のビスコッティのシックなパッケージとは違った趣の、子どもの目にも楽しい、カラフルでかわいらしいデザインが目を引きます。
金賞を受賞した時の心境を聞くと「狙った通り賞が獲れて(笑)、気持ち良かった」と満面の笑みで答えてくれました。「このコンテストは、単純に味の良さだけで競うものではなく、さまざまな方向から審査をされる。私ひとりでは受賞できませんでした。チームで受賞できたことで、喜びは大きかった」とも話してくれました。
千葉のおみやげの定番に
千葉県はさつまいもの収穫量全国3位を誇りながら、世間からはそのイメージが持たれていないとも感じている山本さん。「このお菓子が『さつまいもといえば千葉県』というイメージを根付かせる足がかりになってくれたらいい」と思いを込めながら「千葉のお菓子といえばコレ!っていう、おみやげの定番のひとつにしたい」とビスケッピの目指す先を教えてくれました。
今後の展望
そんな山本さんに今後の展望を聞いてみると、2つの答えが返ってきました。まずはイタリアの伝統菓子であるビスコッティを、地元を中心に広げていくこと。「いわゆる“映える”お菓子ではなく見た目は素朴ですが、味が『心に届く』ものであれば、皆さんの価値観の中で視点も変わって、まだまだ知られていないお菓子にも光が当たるかなと思うんです。そのためにも、いいものを作り続けたい」と熱い想いを覗かせます。
それと同時に、今回のビスケッピのような新たな商品開発にも意欲的です。「イタリア料理人としての経験は、お菓子だけでなく料理の分野でも活かしていきたい」と話す山本さん。「いろんな人と繋がって、他の規格外の農水産品の活用や地域のブランディングなど、さまざまなプロジェクトにもお声がけいただけたら嬉しいです。それが地域や何かを良くしたいと思ってる人との仕事だったら最高ですね」と、新しいアクションへの積極的な考えと、繋がる人の大切さを笑顔で語る山本さんが印象的でした。
技術と経験を武器に挑戦を続ける山本さんのお菓子や料理は、これからも休憩のひと時や食卓に楽しみや喜びを添え続けることでしょう。
ビスコッティ専門店 Binasce
松戸市新松戸4-220-2
TEL:070-8421-5049