「第11回 伊藤園ウェルネスフォーラム」フロー経験の有無が人生の満足度や生きがいにも影響⁉フロー経験の少ない日本の若者、AI時代の「学びと仕事の場づくり」とは。

AI時代にこそ必要な「お茶×幸せな没入感」⁉フロー状態と緑茶の意外な関係とは?

株式会社伊藤園のプレスリリース

 株式会社伊藤園(社長:本庄 大介 本社:東京都渋谷区)は、「第11回 伊藤園ウェルネスフォーラム」(主催:株式会社伊藤園中央研究所)を2026年2月16日(月)に東京都千代田区で開催、同時に伊藤園公式YouTubeにて配信しました。

 本フォーラムでは、「AI時代到来 フロー状態がもたらすヒトの新たな可能性」と題し、伊藤園中央研究所が昨年8月、産業医科大学および公立千歳科学技術大学の研究チームと共同で発表した「緑茶飲料の飲用が速やかに作業成績とフロー体験(特に没入感)を高める」という研究結果に基づき、緑茶の新たな可能性と社会にもたらす影響について議論を行いました。

 AI化が加速する現代社会において、個人のパフォーマンス向上とウェルビーイングの両立は、現代社会の喫緊の課題となっています。そこで、「茶×没入感」というユニークな視点から、学習効率や、仕事の生産性、さらに日常生活の質を高めるための手法まで、生理学的・心理学的側面から「フロー状態」が切り拓く社会課題解決への糸口を模索しています。

※見逃しアーカイブ配信はこちら(https://www.youtube.com/watch?v=ZP_G0lHbCWQ

フローとは:本研究のテーマとなっているフロー状態とは、心理学者のミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)によって命名された、没入できた時に生じる心理状態です。高い生産性や満足感を得られるものとされており、課題の難易度と自分の能力のバランスが高いレベルで釣り合っていることが、フロー体験(没入)が発生する条件の一つとされています。

■ 伊藤園ウェルネスフォーラムについて

伊藤園中央研究所では、幅広い最先端技術を活かし「健康・おいしさ」の領域を中心に研究に取り組んでいます。“お茶”を通じた健康課題の解決を提案するとともに、ウェルネス(身体的・精神的・社会的健康)に資する情報を発信してまいりました。これまで「人生100年時代」への貢献と、健康に関する知恵をお伝えすることを目的として、「伊藤園ウェルネスフォーラム(旧:伊藤園健康フォーラム)」を開催しています。

■フロー経験がもたらす2つの側面~“生きてる感の創出”と“自己成長”

基調講演1:浅川 希洋志 氏「フロー経験がもたらす心理的ウェルビーイングと持続的幸福感の可能性」

 はじめに、フロー理論の提唱者ミハイ・チクセントミハイ氏の共同研究者であり、日本におけるフロー研究の第一人者である法政大学・浅川希洋志教授をお招きし、人が没入し能力を最大限に発揮する心のメカニズムや、人生で直面する課題に柔軟に対応できる資質を持った人間への成長のあり方について、講演いただきました。

 心理学者ミハイ・チクセントミハイ氏が提唱した「フロー理論」は、人が活動に深く没入し、いわゆる“ゾーン”に入るような最適体験を通じて、楽しみながら能力を高め、成長していく過程を説明するものである。フローは、自身の能力と課題の難易度がつり合い、目標が明確で、結果に対するフィードバックがすぐに得られる環境で生じやすい。その状態では、強い集中や時間感覚の変化、不安や過度な自己意識の低下などが見られる。

 大学生を対象とした調査では、フローを頻繁に経験している学生ほど、自尊感情や学業意欲、人生満足度、生きがい感が高く、不安や無気力感、将来への迷いが少ない傾向が確認された。さらに、ポジティブな感情が思考や行動の幅を広げ、個人の力や対人関係を育むとする「拡張形成理論」にも触れ、フローや前向きな感情を日常的に生み出す環境づくりが、心理的ウェルビーイングの向上と持続的な幸福の実現につながると提言された。

■学び・仕事への応用~フローに入りやすい状態を整える、日本茶の新たな可能性

基調講演2:黒坂 知絵 氏「精神作業中のポジティブな状態は何と関連するのか?―緑茶とフロー体験の関係を探る新たな試み―」

 続いて、伊藤園中央研究所との共同研究を主導した産業医科大学・黒坂知絵准教授による基調講演にて、最新の研究内容とそれらが示唆する可能性について、ご説明いただきました。

 研究では、自律神経系に着目し、心電図や呼吸、発汗などを連続的に測定することで、作業中の心の状態を多角的に分析した。緑茶やほうじ茶が作業中の心身に与える影響を検証した結果、ほうじ茶は作業成績の向上や疲労感の抑制に寄与し、緑茶は眠気の増加を抑える効果が示唆された。さらに、別の実験では、緑茶の摂取により暗算課題の反応時間が短縮し、一部の課題でフロー得点の上昇や「時間が早く過ぎた」と感じる傾向も確認された。いずれの実験でも、副交感神経活動(リラックスに関わる神経の働き)の高まりが見られ、心身の状態を整える作用が示された。

 講演では、フローは作業の連続性や明確なフィードバックといった条件に影響を受けること、また日本茶はフローそのものを直接生み出すのではなく、フローに入りやすい状態を整える可能性があることが示された。日常での実践として、少し挑戦的な課題設定、小さな達成感の積み重ね、心身のコンディション調整、メールなどによる通知を抑えた集中環境づくりなどが提案され、科学的知見を学習や仕事に生かす視点が示された。

■パネルディスカッション:「フロー状態がもたらすヒトの新たな可能性」

 最前線で研究されている有識者によるパネルディスカッションでは、最新のフロー研究を踏まえた、フローのもたらす効用や実際の活用場面、いかに実生活へ応用するかについて議論を交わしました。

●「子どもの学びひたる力と、仕事における自己成長」について

 「学びひたる」というのは、学習目標など、自分が目指すところのものに対して、フローを経験していく過程を表した言葉。子どもはもちろん、語学の勉強や資格取得など、目標をもって学習に取り組む大人にも当てはまる。

 また、別の研究で、「子どもの頃のフロー体験が、一生の才能にまで影響を与える」という研究結果も報告されている。特定の分野において能力のある子どもたちの数年にわたる追跡調査によると、フローを経験できるような環境になかった子どもたちは、才能があると言われた分野から、その後離れていってしまう傾向にあることが報告されている。そういう意味でも、幼い頃にフローを経験できるような環境を整えてあげることが重要と言える。(浅川 希洋志)

●「フローを可視化する生理学~どのようにフロー状態に入るか」について

 フローを可視化し、フロー状態に入っているかどうかを知るためには、「様々なデバイスを活用して生理反応を見る」という方法が考えられる。例えば、フローに入った際、心拍数は下がることがわかっており、ウェアラブルデバイスなどを活用して心拍数を計測し、フローに入ったかどうかを見極め、その心理状態にあわせた環境を自動で整えてくれる、というような未来も近いうちに実現するかもしれない。そのために研究を進めている。

 一般的に、フローに入った状態の時、自分がその状態にあると認識するのは難しい。「気づいたら時間が経っていた」「すごく頑張って体は疲れているが、心は全く疲れていない(満足感があり、楽しかった)」「周りの声が聞こえない状態になっていた」など、後から振り返った時に、「あの時、フロー状態に入っていた」と思えるシグナルに対して敏感に気付けるかが重要。自分がどのような状態でフローに入りやすいのかを理解することで、フローに入れる可能性を高められると考える。(黒坂 知絵)

 過去に行った研究で、日本人の学生とアメリカの学生を比較した場合、日本の学生の方が「今までにフローに入った経験がない」と答える割合が高い傾向がみられた。人間の情報処理能力は1秒間に最大126ビットと言われている。日本人は特に周囲の人の評価に意識がいってしまう傾向があるためフローに入りにくいとされており、限られた情報処理能力の中で、できるだけやるべきことに意識を向けられるような状況をどう作っていくかが重要。欧米では自己高揚感(自分を実際よりもポジティブに捉えたり、自尊心を維持・向上させようとする心理的欲求)を高めることで成長するモデルとなっている。一方、日本では人の評価に合わせることで成長するモデルとなっているため、必要以上に人の評価を気にしてフローに入りづらい。そのような環境においては、小さい頃から「褒める・褒められる」習慣を取り入れることで、フローに入りやすくすることが可能となる。

 また、人は一つの活動を行っている間、常にフローに入っていられるわけではなく、フローに入ったり、ちょっと挑戦のレベルが上がって不安の状態に入ったりということを繰り返していく。そのため、フローに入りやすい環境を作る上で、限られた情報処理能力を課題に向けていくための「ルーティンワーク」というのは理にかなっているのだと思う。様々な場所でフローを経験させることで、どんな状態においてもフローに入れるような、自分なりのフローへのルートを多面的に身に着けていくことが必要になってくる。(浅川 希洋志)

●「お茶は学び・仕事のパートナー、科学的整え術」

 日本茶の研究というのは、世界的に見ても珍しい。今回の実験では、短時間での計測であったにも関わらず、気持ちの疲労感を抑制しているというのが結果に表れており、非常に興味深い。カフェインとテアニンを同時に摂取するとよいという報告が論文で出ているが、今回、飲んですぐ効果が出たということを踏まえると、やはり「香り」というのも1つのトリガーになっていると考えられる。この点はまさに今後の研究のテーマとしていきたい。(黒坂 知絵)

 今回の研究のきっかけの一つとして、アメリカの営業担当から、シリコンバレーのクリエイターたちがお茶を飲んで気分を切り替え、効率を高めているという話を聞いた。コロナ時代を経てからのAI時代を迎え、激しい変化の中で、お茶の新たな可能性として、精神的なものにも目を向けてみようと考えた。研究を通じて、お茶が「クリエイティブサポート飲料」「ワークエンゲージメントを高める飲料」という様になっていけばよいと思う。おすすめの飲み方としては、常にフロー状態が続くものではなく波があるというお話もいただいたので、「ちびだら飲み」というような作業をしながら飲んでいく方法もよいのではないか。また、休憩をした時には、しっかりお茶を一杯飲むことが、次の仕事の活力、生産性向上につながっていくのではないかと思う。(加藤一郎)

●フロー(没入)の教育や仕事への活かし方について

 フロー(没入)を受験や教育に活かすことは十分に可能だと思う。自分のレベルにあったところから始めて、「できた」という成功体験と次にもうちょっと難しい問題にチャレンジしてみて、できたら褒めてあげる、というこのサイクルの中でフローを経験しながら、自分の目標に向かっていく。これが重要なことではないかと思う。(浅川 希洋志)

 学習面や仕事面で、自分自身がしっかりと意識し、自分で自分を褒めてあげるなど、自己肯定感を上げる習慣をつけていくことは、非常に大事なことだと思う。フロー状態が、どのような時に生じるのかというのを、それぞれの仕事環境、学習環境で見極めて、活用していただけたらと思う。(黒坂 知絵)

 フロー経験をすることによって、生きがいが生まれたり、満足感が生まれるというお話を伺い、またお茶にこのフローへの導き要素があるという研究も踏まえ、我々としては、お茶を楽しむことによって人生が豊かになったり、幸福感、満足感を感じるような、そういったことにつながっていけばいいと思う。子どもから大人まで、幅広い年代で、学び・成長が続いていけばいいなと思う。そのため、より広い世代の人を対象とした研究や、日本人だけでなく海外にも目を向けながら、もう少し研究の幅を広げていきたいと思う。(加藤一郎)

 千利休の考えに端を発した「好きこそ、ものの上手なれ」という言葉。千利休が体系化した茶道というのは、フロー(没入)を生み出すための環境づくりにも通じるのではないかと思う。没入こそが、「人生の上手」。積極的にその体験をしに行くということが、私たちの人生を豊かにしてくれるのではないか。(西沢 邦浩)

■AI時代を豊かに生き抜く幸福度の高い学びと仕事のヒント

 AI時代において人間の強みを発揮するためには、没入できる力を育むことが重要であり、その環境づくりが今後の社会の鍵となる。

  • 登壇者プロフィール

浅川 希洋志 氏(法政大学 国際文化学部(兼任)大学院 国際文化研究科 教授)

東京理科大学で理学士、東京工業大学大学院で工学修士を取得後、米国コロンビア大学で修士号(心理学)、シカゴ大学で博士号(人間発達学)を取得。2003年より法政大学国際文化学部教授。2006年より同大学院国際文化研究科教授を兼任。理工系から心理学・教育学へと転じ、シカゴ大学ではフロー理論の提唱者ミハイ・チクセントミハイ氏に師事し、直弟子として理論の継承と日本における普及に尽力。主な研究テーマはフロー(最適経験)の普遍性と文化的差異、創造性、ウェルビーイング。文理融合の視点から、人が没入し能力を最大限に発揮する心のメカニズムや「人が人生をより良く生きられる」組織や社会のあり方を探究している。

黒坂 知絵 氏(産業医科大学 産業保健学部 人間情報科学 准教授)

九州工業大学大学院生命体工学研究科にて博士(工学)を取得後、総合病院にて医学研究の推進活動に従事。その後、IT企業で医療福祉関連システムiMedyの開発に携わり、2018年より現職。専門は、人間工学、心理生理学。主に、自律神経指標をもちいた精神性ストレスやフロー状態の評価、ウェアラブルデバイスを活用した暑熱リスクや転倒防止の推定に関する研究に従事している。現職に着任後は産学連携活動に注力し、緑茶によるリラックス効果や作業パフォーマンス向上の関連を自律神経指標に基づいて評価する研究や心拍情報を用いて暑熱リスクを推定する技術開発(特許第7539634号)などに取り組んでいる。

加藤一郎(株式会社伊藤園 中央研究所長)

大学卒業後、株式会社伊藤園に入社。入社以来、製品の品質保証や衛生管理体制の構築など、食品の“安全と信頼”を支える品質改革に取り組んできた。品質管理部長としては、飲料および茶製品の安全性評価や品質基準の策定を指揮し、食品微生物に関するリスクマネジメント体制の確立に尽力。伊藤園の製品品質と安心ブランドを支える中心的な役割を担ってきた。2025年より中央研究所所長として、伊藤園の基盤研究および緑茶の健康機能性研究を統括。科学的根拠に基づいた「お茶の価値創造」と「健康社会への貢献」をテーマに、学術と産業をつなぐ架け橋として尽力している。専門は応用微生物学および食品微生物制御。

モデレーター:

西沢 邦浩 氏(おいしい健康ラボ 所長(日経BP総合研究所 客員研究員))

早稲田大学卒業後、小学館を経て日経BP社に入社。『日経ヘルス』の創刊と同時に副編集長に就任し、その後編集長を務めた。2008年には『日経ヘルス プルミエ』を創刊し、編集長。2010年からはテクノアソシエーツのヴァイスプレジデントを務め、2014年に日経BP総研マーケティング戦略研究所上席研究員、2016年に主席研究員となる。2018年3月に日経BPを退社し、同社総合研究所客員研究員に。同年、株式会社サルタ・プレスを設立。現在は、同志社大学生命医科学部委嘱講師、順天堂大学医学部協力研究員、公益財団法人日本腎臓財団評議員、一般社団法人日本ガットフレイル会議エグゼクティブ・アドバイザー、一般社団法人ウェルネスフード推進協会評議員などを務める。講演やセミナー講師としても活躍するほか、雑誌やWebメディアで健康

コラムを執筆される。

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