~当社の「SU10」および特許技術で、品種改良に新たな道~
横河電機株式会社のプレスリリース
横河電機株式会社(本社:東京都武蔵野市 取締役 代表執行役社長:重野 邦正)は、自動ナノデリバリー/サンプリング技術を搭載する Single Cellome™ Unit(シングル・セローム・ユニット)「SU10」を使用し、外来遺伝子を一切使わない植物ゲノム編集の実験に成功しました。また、当社は「SU10」に実装された自動ナノデリバリー技術を代表的な実施形態とする植物ゲノム編集方法に関して、特許※1を取得しましたのでお知らせします。
これを受け、当社は、植物バイオテクノロジーに特化したベンチャー企業である株式会社インプランタイノベーションズ(本社:神奈川県横浜市 代表取締役:寺川 輝彦)が提供する、研究開発用途の植物ゲノム編集試験を対象とした受託試験サービスに対して、研究開発用途を対象とした非独占の特許ライセンス提供、装置のレンタルおよび実験サポート等の技術提供を2026年3月から開始しました。
実験の概要
実験では、「SU10」を使用し、イネの培養細胞塊(カルス)へ、外来遺伝子(DNA)を全く含まないRNP型ゲノム編集用試薬を、自動ナノデリバリーにより導入し、色素合成関連遺伝子PDS※2の変異を試みました。植物に特化した研究受託会社である株式会社インプランタイノベーションズへの委託試験で、イネ細胞の白色化が色素遺伝子変異に起因する表現型変化であることを確認するとともに、遺伝子解析を行った結果、配列変化を検出したことから、外来遺伝子を一切使わない植物ゲノム編集に成功したことを確認しました。
背景
近年、地球温暖化や食料需要の増加を背景に、高収量で安定的に生産できる農作物や、病害虫・環境ストレスに強い作物へのニーズが高まっています。加えて、健康志向の高まりを受け、食品の栄養価や味の改善を目的とした植物バイオテクノロジー分野の研究開発も活発化しています。
改良手法として、2020年にノーベル化学賞を受賞したCRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)というゲノム編集技術が近年活用され始めており、その革新性から植物ゲノム編集市場は2031年に約93億ドル規模へ成長※3すると予想されています。一方で、この技術を用いて実用化された食品は、現時点では世界的にもまだ少数にとどまっています。
植物ゲノム編集の課題としては、作物や品種によっては編集効率が低くなるケースがあることに加え、編集工程で一時的に外来遺伝子を導入する手法では、最終産物から外来遺伝子を除去・確認する必要があり、開発期間の長期化につながる点などが挙げられます。こうした状況が、品種改良への本格的な応用を遅らせている一因となっています。
技術の特長
当社の「SU10」は、自社で製品化・製造する極微細なガラス針「ナノピペット」の動作を精密に制御し、1細胞レベルでターゲット部位へ物質を直接デリバリー(物質ナノデリバリー)/サンプリングできる装置です。ナノピペット先端のイオン電流の変化を用いて細胞表面を非接触で自動検知します。その検知をトリガーとして、穿刺・注入・抜去までを全自動で実行することで、実験者の技術の熟練度のばらつきを抑えた再現性の高い1細胞操作を実現しています。注入には電気浸透流を利用し、電圧と時間で注入量を制御することで、フェムトリットル級※4の極微量操作が可能です。先端外径が数十ナノメートルと極めて細く、バイオ研究分野では最小クラスを誇ります。
これらにより、細胞へのダメージは極めて少なく、自己修復が早く、結果として生存率が高くなり、生きた状態のまま解析を続けることができます。従来、硬い細胞壁と細胞内圧の高さから物質導入が難しいとされてきた植物細胞に対しても、多数の蛍光顕微鏡画像により、蛍光物質の細胞内導入を確認しています。
当社の「SU10」および特許技術を活用すると、この自動ナノデリバリーを用いて外来DNAを使わずに植物のゲノム編集ができます。以下の特長があり、植物バイオテクノロジー研究や品種改良などの産業応用に大きく寄与します。
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外来遺伝子を使用しないことによる品種改良プロセスの効率化
外来遺伝子を用いずにゲノム編集を行うことが可能であり、新たな品種改良を短期間で進めることができます。これにより、開発期間の短縮や市場投入にかかるコスト削減にもつながります。
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多様な品種への適用可能性
従来の植物ゲノム編集手法であるウイルス感染を利用した方法や、植物組織にランダムなダメージを与えながら遺伝子を導入する方法では、適用可能な品種が限られるという課題がありました。当社の技術は、狙った細胞を低ダメージで物理的に穿刺し、物質を直接導入するという原理的特性を有しており、これまで品種改良が困難であった作物への応用や、植物個体を直接ゲノム編集できる可能性を広げます。
当社は、新技術の開発により品種改良に新たな道を開くとともに、技術を活用できる基盤を整え、植物バイオテクノロジー分野や種子・種苗関連企業の研究開発を支援することで、学術的および応用的な研究の発展に貢献してまいります。
横河電機 執行役ライフ事業本部長の中尾寛は、次のように述べています。「世界的な食料問題の解決に貢献するための革新的な基盤技術を開発したことを誇りに思います。この技術を植物バイオテクノロジーの研究者や種子・種苗関連企業へ提供することを通して、持続可能な社会の実現に貢献していきます」。
※1 特許第7729509号「植物細胞への物質導入方法、遺伝子改変植物又は植物細胞及びこれらの製造方法、並びに植物細胞への物質導入装置の制御プログラム」
※2 色素合成関連遺伝子PDS:植物の色素(カロテノイド)の合成に関わる遺伝子。働きを止めると白色化が起きやすく、ゲノム編集の確認によく用いられる。
※3 Genetic Engineering in Agriculture 2021-2031, IDTechEx Research(2020年6月発表)
※4 フェムトリットル:1リットルの1000兆分の1。
主な市場
種苗、穀物、花き、果樹、食品、植物バイオテクノロジー
用途
種苗、穀物、花き、果樹等の植物の品種改良、基礎・応用研究
関連情報
Single Cellome™ Unit「SU10」
https://www.yokogawa.co.jp/solutions/products-and-services/life-science/single-cellome/su10/