大塚食品株式会社のプレスリリース
大塚食品株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:池内呉郎)は、琵琶湖研究所(滋賀県大津市)において、味・レシピを学習し予測するAIシステム『おいしさLENS(レンズ/Logical Exploration Navigation System)』を開発し、発売から58年を迎えたロングセラーブランド「ボンカレー」で、このたび活用を開始しました。長年の製品開発で培ってきた知見をデータとして活用することで、親しまれた味を守りながら次世代へ継承するとともに、新しい「おいしさ」の可能性も広げる取り組みです。
【背景と課題】
少子高齢化・人手不足が進む中、技術継承の難しさは社会全体が直面する問題となっています。当社にとって、“変わらないおいしさを届け続けること”は、長年ご愛顧いただいているお客様や社会への責任・使命であり、味づくりのノウハウをいかに次世代へつなぐかが重要なテーマとなっています。
また、昨今の気候変動や地政学リスクに伴う原材料の高騰や調達の不安は、食品メーカーが安定した味と品質を届け続ける上での業界共通の課題です。
大塚食品の琵琶湖研究所には、研究員一人ひとりが納得のいく味にたどり着くまで粘り強く製品を作り込む文化があります。多い時には何百もの試作を重ねながら、味の方向性や配合を磨き上げてきました。一方で、そうした試行錯誤の過程で得られる判断や工夫は、個々の研究員の中に蓄積される部分も多く、世代交代の際に貴重な技術や知見が十分に継承されない懸念がありました。
原材料の調達環境が激しく変化する中でも、お客様が慣れ親しんだ“いつものあの味”を守るためには、レシピや配合などのノウハウを体系的に管理・活用できる仕組みが不可欠です。
こうした課題を受け、「熟練者たちの貴重な開発資産を引き継ぎ、愛されてきた味を守りたい」という研究員の想いから、見えない技術・知識を資産化し、AIを活用して味の継承と開発の効率化まで行う、琵琶湖研究所のDXプロジェクトがスタートしました。
【オリジナル予測モデルと開発プラットフォーム構築】
■複雑な味を可視化しAI学習データを整備
今回の取り組みの核となったのは、開発チームが長年磨き上げた経験や感覚に支えられてきた「おいしさ」を、AIが利用できるデータに変換することでした。
カレーは多様な原材料を組み合わせ、加熱や煮込みによって味や香りが変化する食品であるため、「おいしさ」をデータとして整えるには緻密な設計が求められます。そこで着手したのが、試食して味や香りの評価を行う「官能評価」で使用する言葉と基準の統一です。
例えば、カレーの官能評価で頻繁に使用される「カレー感」という言葉は、「煮込み感を含む全体的なソースのイメージ」と捉える研究員もいれば、「カレー粉のような複合的な香辛料のイメージ」と捉える研究員もいます。
このような言葉の認識のズレを一つひとつ洗い出し、「ボンカレー」の主力シリーズ「ボンカレーゴールド」では、「おいしさ」を表現する218のフレーズを作成。さらに、約半年にわたって各研究員へのインタビューや1,000食以上の評価基準サンプルの試作を行い、全員が共通言語で評価するための「味の評価属性」を16種類に絞り込みました。
これにより、味の評価を属性ごとに数値で記録、可視化し、誰もが共通して使えるデータとして蓄積できるようになりました。
■オリジナルAI予測モデル構築
これらの味の評価属性による官能評価データと、研究員の試作レシピデータを組み合わせることで、おいしさと作り方を学習させ、味やレシピを予測できるようにしたAIが『おいしさLENS』です。
外部システムを利用せず、自社の知見とデータを結集したオリジナルのモデルで、「レンズを通して焦点を当てるように、見えなかったものを鮮明に捉え、新しいおいしさを探究する」という意味が込められた名称です。
モデル検証では、『おいしさLENS』の予測は熟練研究員の感覚と一致するだけでなく、本人も気づかなかった新しい試作案まで提示できることが確認され、本格的な開発業務への実用を開始しました。
■データベースによる開発プラットフォーム構築
同時に進めたのが、開発ノウハウとAI学習データを集めた開発プラットフォームの構築です。約40年分、数十万ページにのぼる紙の資料をAI OCR技術で電子化し、「ボンカレー」をはじめ琵琶湖研究所が手がけてきた製品開発の記録や資料など膨大な情報をデータベースに集約することで、必要なときに即時に検索・参照できるようになりました。
また、データベースに新たに登録される試作レシピや官能評価のデータは、そのまま『おいしさLENS』の学習データとしても使える仕組みにすることで、誰もが開発資産を活用できる基盤をつくりました。
【『おいしさLENS』でできること】
『おいしさLENS』では、例えば「ボンカレー」のどの原材料が、どの程度“ボンカレーらしさ”に影響しているかといった、原材料の重要度を数値で把握できます。原材料の調達状況が変化したり、味の改良が必要になった場合でも、「どのようなレシピが考えられるか」「どのような味になるか」をデータをもとにAIで予測し、代替の原材料や配合を検討できるため、長年親しまれてきた味を守り続けることにつながります。
研究員からは、「先代から受け継いだレシピを数値で検証することで、どの原材料が味の決め手かが証明され、試作の優先順位が明確になった」という声も上がっています。
さらに、消費者の嗜好性アンケートをデータとして組み込むと、「試作品がどんな人にどのように好まれるか」まで予測できます。研究員の感覚とさまざまな種類のデータを同じ土台の上で扱えるようにしたことで、データに基づいた試作の方向性の絞り込み・提案が可能になり、開発のスピードアップにもつながります。
【今後に向けて】
大塚食品では、収集したデータと予測技術に味覚センサー、香りセンサー、テクスチャーアナライザー(食感測定機器)などによる測定値を組み合わせることで、さらなる“おいしさの見える化”を進めています。
この取り組みは「ボンカレー」から他のブランドへも展開します。テクノロジーを活用しつつ、人の経験・感覚も大切にしながら、親しまれた味を未来へつなぎ、時代の変化に合わせた新しい「おいしさ」も追求し続けてまいります。