ビフィズス菌が体内の過剰な炎症反応を抑制する可能性を確認 ~老化進行の要因の一つ「ヒト免疫細胞の応答性」に関する研究~

~科学雑誌『iScience』掲載~

森永乳業株式会社のプレスリリース

 森永乳業は、50 年以上にわたり、ヒトの腸内に生息するビフィズス菌(Human-Residential Bifidobacteria; HRB)※1の様々な健康効果に関する研究を基礎から応用まで幅広く行っています。このたび、腸内のビフィズス菌が体内の炎症反応を調節する仕組みの一端を明らかにし、国際学術誌「iScience」に2026年6月30日に掲載されました。

本研究成果のポイントは次の2点です。

●腸内のビフィズス菌割合が高い人は、免疫細胞が過剰な炎症を起こしにくい傾向にある(図1左)。

●ビフィズス菌由来の成分に一度ふれた免疫細胞は、その後に炎症を引き起こす刺激を受けても過剰に反応しにくくなる(図1右)。

 これらの結果から、腸内のビフィズス菌が体内の免疫細胞の炎症応答性を変化させ、体内の過剰な炎症反応を抑制する可能性が示されました。また近年の研究では、炎症反応が続くと慢性炎症※2へと移行し、老化やさまざまな疾患の一因となることが報告されています。そのため、ビフィズス菌は炎症反応のバランス維持に関与し、老化進行の抑制や健康維持に寄与する可能性があると考えられます。

                      図1 本研究の概念図

1.研究背景

 免疫細胞は、病原菌だけでなく、ビフィズス菌などの有用菌を含むさまざまな細菌由来の成分に反応して、体を守るために炎症に関わる物質を産生します。一方で、過剰な炎症反応の持続は、健康に影響を及ぼすと言われています。こうした反応の強さには個人差があることが知られており、年齢や体質などの個人要因に加え、腸内細菌や食事といった環境要因が関わる可能性があります。なかでも腸内細菌は、腸内にとどまらず全身の免疫細胞に影響を及ぼし得ることが報告されており、免疫細胞の状態を左右する重要な要因の一つと考えられています。一方で、どの腸内細菌が免疫細胞の炎症応答性に関与し、その仕組みがどのようなものであるかについては、これまで十分に明らかになっていませんでした。

 ビフィズス菌はヒトの腸内に広く存在する有用菌であり、免疫の恒常性維持や過剰な炎症反応の調節への関与が示唆されています。そこで本研究では、健康な成人を対象に腸内細菌叢と免疫細胞の炎症応答性との関係を評価するとともに、ビフィズス菌がヒト免疫細胞の炎症応答性に及ぼす影響について検討しました。

2. 研究結果

①腸内のビフィズス菌割合が高い人では、免疫細胞の炎症反応が低い傾向

 健常成人50名の血液から免疫細胞を取り出し、細菌などの刺激に反応して炎症に関わる物質を産生する免疫細胞の一種である単球由来樹状細胞(moDC)※3を作製しました。このmoDCに、細菌(B. longumまたはL. paracasei)を加え、個人ごとの炎症応答性の違いと、腸内細菌叢の違いとの間に関連※4があるかを解析しました。その結果、解析した腸内細菌の中では、特にビフィズス菌の割合がmoDCの炎症応答性と関連しており、腸内のビフィズス菌割合が高い人ほど、moDCによるIL-6やIL-8などの炎症に関わる物質の産生量が少なく、炎症反応が低い傾向が認められました(図2、図1左)。

                       図2 腸内細菌と炎症応答性の関連

 図2は、縦軸に示す19種類の腸内細菌とmoDCの炎症応答性との関連を色で示したものです。解析対象とした腸内細菌は、50名の平均割合が1%以上の菌です。青色は「その腸内細菌が多い人ほど炎症反応が低い傾向」、赤色は「炎症反応が高い傾向」を示しています。(*p<0.05 有意差あり)

②ビフィズス菌は遺伝子の働き方に関わる仕組みに影響し、過剰な炎症反応を調節する可能性 

 次に、ビフィズス菌がmoDCの炎症応答性を変化させ得るかを、細胞実験で検証しました。moDCを含む免疫細胞には、事前に受けた刺激によって、その後に受ける刺激に対する炎症応答性が変化する性質が知られています。これは、炎症反応を適切な強さに保ち、過剰な炎症が長く続くことを防ぐ仕組みのひとつと考えられています。そこで、ビフィズス菌がこのような炎症反応のバランスを調節する可能性について検証しました。

 結果、ビフィズス菌由来の成分を事前に作用させたmoDCでは、作用させていない対照群と比べて、その後に性質の異なる細菌(グラム陽性菌またはグラム陰性菌※5)による刺激を受けても、炎症に関わる物質の産生が抑えられました(図3、図1右)。さらに詳しく解析したところ、ヒストン修飾※6と呼ばれる遺伝子制御機構に変化が認められました。

        図3 ビフィズス菌成分の事前作用による免疫細胞の炎症反応の変化(論文図より改変)

3. まとめと今後の展望

 ビフィズス菌は腸を起点にさまざまな健康作用を発揮することが知られています※7。今回新たに、腸内のビフィズス菌が体内の免疫細胞の炎症応答性を変化させ、過剰な炎症反応を抑制する可能性が示されました。また、当社はこれまでに、「ビフィズス菌BB536」配合プレーンヨーグルトと生活習慣の改善により老化の進行速度が減速する可能性を報告しています※8。老化の進行には多様な要因が関与することが知られており、そのひとつとして、炎症反応が長期間続く慢性炎症※2が注目されています。今回の成果は、ビフィズス菌がヒトの健康維持、特に老化に関わる炎症反応の調節にどのように関与し得るかを理解する上で、重要な基盤的知見になると考えています。今後も、ビフィズス菌による炎症反応の調節に関する研究をさらに進め、人々の健康に貢献できる製品応用を見据えた研究開発につなげてまいります。

<参考情報> 

※1 ヒトの腸内に生息するビフィズス菌(Human-Residential Bifidobacteria; HRB)

 ビフィズス菌は、現在までに100種類以上発見されています。しかし、ヒトの腸内にすむビフィズス菌とヒト以外にすむビフィズス菌では、基本的に種類が異なります。森永乳業は特にヒトの腸内にすむビフィズス菌にこだわって研究開発を行っています。また当社は、ビフィズス菌の中でもヒトの腸内に特徴的に生息する種を「ヒト常在性ビフィズス菌(Human-Residential Bifidobacteria; HRB)」と命名しました。ヒトの腸内にすむビフィズス菌は、1500万年以上にわたり、ヒトの祖先と共に進化を遂げてきたことが示唆されています。こうした長い共進化の過程は、HRBがヒトの健康にとって極めて重要な役割を担ってきたことを示す一つの証拠だと考えています。

 

※2 慢性炎症

 炎症は、けがや感染などから体を守るために必要な反応です。一方で、低度の炎症反応が長期間持続する状態を慢性炎症といいます。慢性炎症は自覚症状が出にくい場合もありますが、加齢に伴って体内で生じやすくなることが知られており、老化に伴うさまざまな体の変化や健康課題との関連が指摘されています。

※3 単球由来樹状細胞(moDC)

 単球由来樹状細胞は、血液中の単球を特定の条件で培養することで作製される樹状細胞様の免疫細胞です。細菌などの刺激に反応して炎症関連因子を産生するため、免疫細胞が刺激を受けた際の炎症応答性を調べる研究で用いられます。本研究では、健常成人の血液から単離した単球を単球由来樹状細胞に分化させ、細菌刺激に対する炎症反応を評価しました。

 

※4 免疫細胞の炎症応答性と腸内細菌叢との関連性

 免疫細胞の炎症反応と腸内細菌の割合との間に関連がみられるかを検討するため、スピアマンの順位相関解析を実施しました。スピアマンの順位相関解析は、2つの項目の大小の順序に基づいて、関連の強さと向きを表す解析方法です。値が +1 に近いほど同じ方向に動く傾向が強く、-1 に近いほど反対方向に動く傾向が強く、0 に近いほど明確な関連が乏しいことを示します。

 

※5 グラム陽性菌・グラム陰性菌

 細菌は細胞表面の構造の違いにより「グラム陽性菌」と「グラム陰性菌」の大きく2種類に大別されます。グラム陽性菌は厚い細胞壁を持つことが特徴で、グラム陰性菌は外膜にLPS(リポ多糖)を持つことが特徴です。いずれも免疫細胞を刺激し、炎症に関わる物質の産生を引き起こすことがあります。

 

※6 ヒストン修飾

 ヒストンは、DNAが巻き付いているたんぱく質で、遺伝子の働き方の調節に関わっています。ヒストンに化学的な目印が付くことをヒストン修飾といい、この修飾の状態によって、遺伝子が働きやすくなったり、働きにくくなったりすることがあります。本研究では、ビフィズス菌成分が免疫細胞のヒストン修飾に影響を及ぼし、炎症反応に関わる遺伝子の働き方を調節する可能性が示されました。

※7 ビフィズス菌の健康作用

 ビフィズス菌は、腸内環境を整える有用菌として知られており、便通やおなかの調子を良好に保つ働きが報告されています。また、腸内での働きを通じて、免疫機能など全身の健康に関わる可能性についても研究が進められています。

※8 ビフィズス菌BB536配合プレーンヨーグルトの臨床試験

 HRBであるビフィズス菌BB536を含むビフィズス菌BB536配合プレーンヨーグルトの摂取と食事・運動習慣改善による老化への影響を調査した研究です。研究の結果、3か月間の取り組みにより老化の進行速度を示す指標で、減速の可能性が示されました。

Short-term responsiveness of DNA methylation–based aging biomarkers to a multimodal intervention comprising exercise and dietary guidance involving daily consumption of yogurt containing Bifidobacterium longum BB536: an exploratory randomized controlled trial, Aging (2026) (DOI: https://doi.org/10.18632/aging.206386)

<論文タイトル・著者>

「Gut commensal bifidobacteria are associated with restrained inflammatory reprogramming in human monocyte-derived dendritic cells」

Sayaka Ishihara, Tatsuki Nishimura, Riko Mishima, Eri Mitsuyama, Akira Sen, Hiroki Kaneko, Yukihiro Hishida, Miyuki Tanaka, Toshitaka Odamaki

iScience (2026) https://doi.org/10.1016/j.isci.2026.116583

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