油脂含有食品中の3-MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルの間接分析法の開発 ~ハウス法(酵素法)及びEFSA法の改良~

ハウス食品グループ本社株式会社のプレスリリース

ハウス食品グループ本社株式会社(社長:浦上博史)は、食の安全・安心への貢献を目指し、油脂含有食品中の3-MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルの間接分析法を開発してきました。当該の分析法が、既存法と比べて迅速・簡便に同等の分析結果が得られることから、この方法を広く世の中で活用いただくため、以下の①~③の活動を展開しています。

①弊社保有の分析技術に関する特許の開放
②日本油化学会の制定する公定法として「基準油脂分析法2018年増補・改訂版」への収載
③「農林水産省 平成29年度 安全な農林水産物安定供給のためのレギュラトリーサイエンス研究委託事業」を受託して、既存の欧州食品安全機関による間接法との比較試験の実施

 今回、主に③の研究成果を2018年9月4~6日に開催される日本油化学会第57回年会(神戸市西区 神戸学院大学有瀬キャンパス)にて口頭発表いたします。

■分析法開発の背景
1970年代より遊離型の3-モノクロロ-1,2-プロパンジオール(3-MCPD)が酸加水分解植物性たん白やそれを原料とする食品中に含まれていることが分かりました。2008年にはコーデックス委員会により、これらの食品中の3-MCPD低減のための実施規範が策定され、その効果を確認するために酸加水分解植物性たん白を含む液状調味料中の3-MCPDの基準値が設定されました。精製した油脂中には、2006年にエステル型である3-モノクロロ-1,2-プロパンジオール脂肪酸エステル(3-MCPDEs)が、2009年に類似物質であるグリシドール脂肪酸エステル(GEs)が含まれることが報告されました。3-MCPDEs、GEsに関して、食品を通じた長期的な摂取による健康影響の可能性を把握するための調査研究が世界各国で進んでおり、食品中のこれら物質の濃度を正確かつ迅速に定量する分析法が求められています。

■ハウス食品グループの取り組み
1.品質保証
ハウス食品グループは、商品の企画設計から原材料調達、製造、物に至るまで、各々の工程で求められる品質の実現と更なる向上に努めています。現在の法規制を順守することはもちろん、将来起こり得る懸念に備えて、原材料の調達や製造の段階で3-MCPDEs、GEsの含有濃度は確認すべき項目になると考えています。

2.分析法開発
油脂中の主なGEsは脂肪酸の種類により数種、3-MCPDEsは脂肪酸の種類と結合位置により数十種の類縁体が存在します。これら物質を脂肪酸エステルのまま定量する直接分析法、脂肪酸エステルを加水分解して得られる遊離体(3-MCPD、グリシドール)を定量する間接分析法が、多くのグループにより開発されてきました。弊社は、2009年頃、3-MCPDEs及びGEsを同時に定量する間接分析法が、原材料や食品の品質管理に適していると考えて、独自に分析法開発に着手しました。

既存の手法のイメージ

3-MCPDEsとGEsは類似の構造を持つため、pH(アルカリ、酸)の変化により容易に物質間の変換が生じることが報告されていました。一般的に分析手法では、pHの変化による加水分解を含むため、いかに意図しない変換を抑制しつつ、3-MCPDEsとGEsの脂肪酸を分解することができるかが分析法開発の重要課題でした。弊社では、新たに、食品の加工・製造にも使用されるリパーゼという酵素に着目し、3-MCPDEs、GEsを穏やかに加水分解する手法を取り入れたハウス法(酵素法)を確立しました。同時期に、ユニリーバらが報告した米国油化学会の公定法では、分解に16時間を要するのに対し、酵素法では0.5時間と大幅に分析時間を短縮し、分析コストを削減することができました。なお、4章で述べます加工食品を対象とする欧州食品安全機関(EFSA)法及び酵素法は、前処理として食品から脂質の抽出操作があります。EFSA法では、食品から抽出した脂質をユニリーバ法(一部改変)で分析します。

既存の手法との比較

3.公定法への収載
弊社が開発した酵素法を広く食品業界で活用していただくため、2014年、(公社)日本油化学会の規格試験法委員会に専門の小委員会を設置し、13機関による性能評価試験(室間再現性試験)を実施しました。2016年、酵素法は、日本油化学会が制定する基準油脂分析試験法の基準法として承認され、会員誌に掲載されました。同時に、弊社が保有する特許権を開放しました。
油脂から作られるマーガリン等については、基準法をそのまま適用できることを確認しました。多価不飽和脂肪酸エステルを含む魚油については、別の酵素を用いた分析法が、基準油脂分析試験法の推奨法として承認されました。
これら2つの酵素法は、「日本油化学会制定 基準油脂分析法2018年増補・改訂版」として、8月に刊行されました。

4.2018年9月4-6日 日本油化学会第57回年会で発表予定
3-MCPDEs、GEsによる健康影響を評価するには、油脂を含む食品中の物質含有濃度を調査し、国民の推定摂取量を算出することが必要です。そこで、酵素法が適用できる食品の範囲を更に広げる活動を実施してきました。昨年度、「農林水産省 平成29年度 安全な農林水産物安定供給のためのレギュラトリーサイエンス研究委託事業」の枠組みで「油脂を用いた加熱調理が、食材中の3-MCPD脂肪酸エステル類及びグリシドール脂肪酸エステル類の生成に及ぼす影響を把握するための分析法の開発」を受託しました。本研究では、日本独自の加工食品について、欧州食品安全機関によるEFSA法、及びハウス法(酵素法)をそれぞれ一部改良した後、3-MCPDEs、GEsを分析したところ、同等の値が得られました。加工食品を分析するには、EFSA法及び酵素法のいずれについても、油脂の分析に、前処理として脂質の抽出操作を追加しました。ここでも酵素法は、前処理から間接法を通して、EFSA法に比べて迅速でありました。9月4~6日に開催されます日本油化学会第57回年会では、弊社の宮崎らが、両分析法の比較結果を発表する予定です。

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