TDBのプレスリリース
2021年秋以降は緊急事態宣言などが全面解除され、年末年始の書き入れ時に一定の集客を確保できた飲食店は多い。しかし、長引くコロナ禍で生活様式が変化していることに加え、オミクロン株の急激な感染拡大により、まん延防止等重点措置が多くの都道府県で適用され、認証店、非認証店で差はあるが、休業・時短営業などがはじまった。飲食需要の再度縮小が懸念され、厳しい状況が続きそうだ。さらに足元では、新型コロナの影響による需給環境の変化により、食品業界も原材料の値上げラッシュと難局に直面している。
- 2021年中に発生した飲食店の倒産は569件(前年比27.1%減)だった。前年から200件超の減少となり、2016年以来5年ぶりの500件台となった
- 自主的に事業をたたむ休廃業・解散件数も前年から8.7%減の494件だった
- 飲食店で最も件数が減少したのは、接待などで利用される日本料理店で、前年から29件の減少。また、居酒屋の倒産件数は167件と、前年から22件減少となったものの、最多を記録した昨年に次ぐ件数となった
- 『全国企業財務諸表分析統計』をみると、2020年度の現預金手持日数は2019年度の44.8日から105.8日、2021年12月時点では126.7日へと増加。有利子負債月商倍率は、2019年度の4.39倍から2020年度は8.92倍、2021年12月時点では11.4倍へと膨らんでいる
- 2021年度(2021年4月~22年3月期)の飲食店業績(2021年12月時点の予想・見込値を含む)をみると、前年から「増収」となる企業は約1割にとどまり、多くが2020年と同等か、さらに下回る売り上げ水準を余儀なくされている。利益面では、営業赤字となった企業の約半数で最終黒字となっている
- 雇用過不足DIをみると、正規、非正規社員ともに2021年秋以降急激に人手不足感が高まっている
- 仕入単価DI、販売単価DIの差が広がっており、原材料価格高騰による販売価格への転嫁が課題となっている
- 金融機関の融資姿勢を表す融資姿勢DIは、コロナ禍でのピーク時から10.8ポイント低下
- 設備投資DIは2021年10月以降、基準となる50を超え、設備投資意欲は上昇している
飲食店の倒産、コロナ禍の2020年から200件超の大幅減に
2021年中に発生した飲食店の倒産は569件(前年比27.1%減)だった。前年から200件超の減少となり、2016年以来5年ぶりの500件台となるなど、大幅な減少となった。自主的に事業をたたむ休廃業・解散件数も前年から8.7%減の494件だった。
飲食店は、コロナ前から消費税の引き上げやパート・アルバイトを中心とした人手不足により、倒産は増加傾向にあった。そうしたなか、2020年は緊急事態宣言などの発出で外出自粛や休業、時短営業などで外食需要が消失し、年間では過去最多となる780件を記録した。特に、アルコールの提供制限を受け、宴会需要が大きく消失した居酒屋への影響は大きく、2020年4月に過去最多となる23件が発生。年間でも189件と、2019年(161件)を30件近く上回り最多を更新した。しかし、飲食店への協力金給付が開始した2020年12月以降、月別の倒産件数にも顕著に表れているように、休業・時短協力金や休業補償など、給付型マネーを中心としたコロナ関連支援策の効果がうかがえる。
引き続き、体力の乏しい中小・零細企業が倒産の中心となっているものの、中堅規模の飲食店でも倒産の割合が高まっている。負債額別では、負債5000万円未満の小規模な倒産が7割超を占める一方で、負債1億円以上では10.9%となり、2017年以来4年ぶりに1割を超えるなど、傾向や内容に変化がみられる。
アルコールの提供機会が多い業態で倒産の減少が顕著
飲食店の倒産で最も件数が減少したのは、接待などで利用される日本料理店で、前年から29件の減少。次いで、イタリアンやフレンチなどのレストラン(28件減)、中華・エスニック料理店(24件減)、バー・ナイトクラブ(23件減)、件数で最も多い居酒屋(22件減)と続く。大幅に減少した飲食店の業態上位ではいずれも、アルコール提供のシーンが比較的多い業態だった。
手元現預金コロナ前の2.8倍、借入も膨らむ
飲食店の2019年度の現預金手持日数は44.8日であったが、2020年度には105.8日、2021年12月時点では126.7日となり、コロナ以前の約2.8倍と大きく増加している。
また、有利子負債月商倍率は2019年度の4.39倍から2020年度は8.92倍、2021年12月時点では11.4倍へと膨らんでおり、各企業が金融機関からの資金調達や各種給付金、協力金などで有事に備え、手元資金を確保していることがわかる。
大手飲食チェーン運営業者などでは、第三者割当増資の実施や資本性劣後ローンの利用で資本増強し、自己資本比率を高め、中長期的な財務基盤の安定化を図る動きもみられた。2021年2月にはロイヤルホールディングス(株)が総合商社の双日(株)から第三者割当増資で100億円の資金調達を行った。(株)ジョイフルも同年6月に(株)日本政策投資銀行と(株)伊予銀行から計40億円を資本性劣後ローンで調達することを発表するなど資本増強策を講じる動きがみられた。
8割超が営業赤字も、営業赤字企業の約半数が最終黒字
2021年度(2021年4月-2022年3月)の飲食店の業績(2021年12月時点の予想・見込値を含む)のうち、前年から「増収」となる企業は約1割にとどまり、多くが2020年と同等か、さらに下回る売り上げ水準を余儀なくされている。
他方で、利益面では82.0%で営業赤字となっている。しかし、営業赤字となった企業の約半数で当期純利益は黒字となっている。時短協力金などを特別利益として計上したことなどが要因となっており、上場している飲食店事業者でも時短協力金で利益が大きく押し上げられたケースもあり、飲食店への支援金が経営面でプラスに働いている。
人手不足感が急激に高まっている
飲食店は新型コロナウイルス感染拡大前、人手不足問題を抱えていた。しかし、コロナ禍で店舗の休業や営業時間の短縮、規模の縮小など行い、固定費となる人材の削減へと舵を切った企業も多い。しかし、ワクチンの普及や昨年秋以降の営業制限の解除など回復局面を向かえ、再度人材不足が叫ばれ始めた。実際、帝国データバンクの景気動向によると、飲食店の雇用過不足DIは正社員、非正規社員ともに急激に不足感が上昇している。特に非正規社員いわゆるアルバイトの不足感が強い傾向がみられる。
原材料価格高騰、販売価格転嫁が課題
新型コロナの影響による需給環境の変化により、原材料など様々な食材の値上げが相次いでいる。ミートショックともいわれるように、牛肉をはじめとする食肉の価格が高騰。そのほか、商用油や小麦粉など様々な料理に使用される食材に加え、食材を輸送するガソリン価格の高騰により、運送費も上がっている状況だ。大手飲食チェーン各社も、値上げや内容量を減らすなど行っている。ファミレス大手の(株)サイゼリヤも人気商品の「辛味チキン」の本数を減らすなど対策を講じ、ファンからは悲しむ声もあがっていた。
仕入単価DIと販売単価DIの推移をみると、仕入単価DIが急激な勢いで上昇しているのに対して、販売単価DIは基準となる50は超えているものの、上昇幅は小さい。大手飲食店では販売価格への転嫁を進める動きもみられるが、中小規模の企業ではなかなか進んでいない状況もうかがえる。
2019年10月の消費税率の引き上げに伴い、テイクアウトに関しては、軽減税率が適用されているものの、イートイン型店舗の場合が適用されず、飲食店では価格転嫁が課題となっていた。そうしたなか、新型コロナの感染拡大により業況が急激に悪化し、テイクアウト商品に注力をする動きも活発化したが、それでもやはり飲食店の主戦場はイートイン。2021年秋ころより新規感染者数も幾分落ち着き、通常通りの営業が可能となってきたものの、そこに仕入価格の高騰と経営課題となる要素が散見される。
企業努力も融資判断基準に
まん延防止等重点措置に伴い、再度時短協力金が給付され、とりあえず資金繰りをつなぐことができる企業も多いだろう。ただ、政府系金融機関のゼロゼロ融資の期限は今年の3月末までとなっており、その後の金融機関からの支援スタンスには注目が集まる。
民間金融機関では昨年の3月まででゼロゼロ融資は終了しており、追加融資ではなく、リスケジュールなどでの支援も目立つ。融資姿勢DIをみても、1回目の緊急事態宣言時(2020年5月)に63.2となっていたが、2021年12月時点では52.4とコロナ禍でのピーク時より10.8ポイント低下している。全業種と比較しても3.2ポイント低くなっている。
金融機関の担当者も昨年の夏時点で「コロナ禍以降、すでに複数回の融資打診を受けている企業もあるが、もう手放しで出すことはできない。企業がどのような対策を講じているか、先行きの見通しがあるかなども見ている」と話していた。金融機関もコロナ禍初期のようなスタンスでの融資とはいかない状況だ。現在、再度感染が拡大しており、いつ収束するか不透明な状況だが、その中でのウィズコロナ、アフターコロナにおける企業努力が一つ重要な要素となっている。
また、有利子負債月商倍率が上昇しているように、「借入金が増加しているなか、コロナが収束したのちに、果たしてその企業が返済可能か否かを見極めていく必要がある」と金融機関の担当者は話していた。
設備投資意欲上昇、アフターコロナを見据える
大手飲食店をはじめとして、多くの企業が店舗閉鎖など規模の縮小を行った。大型店を主体とする居酒屋業態は、忘年会や新年会などの大規模な宴会需要の減少から小規模化もしくは業態転換する動きがみられた。ワタミ(株)が新たに焼肉業態への参入を図ったほか、(株)鳥貴族ホールディングスがチキンバーガー専門店を出店するなど、居酒屋大手チェーンなどの新業態が話題となった。
また、とんかつ店の「かつや」などを展開するアークランドサービスホールディングス(株)やラーメン店「横浜家系ラーメン町田商店」を展開する(株) ギフトはコロナ禍においても積極的な出店、立地戦略で店舗数を増加し、業績を伸ばしている。
上記のような動きから、設備投資は業態転換を図る企業を中心に一定数あったものとみられるが、設備投資意欲DIをみると、2020年4月に15.1と大きく減退した。その後も飲食店の設備投資意欲は全業種と比較しても、より顕著に緊急事態宣言の発出の有無で上下を繰り返して推移している。長らく基準となる50を下回る状況が続いていたが、営業時間の短縮要請などが全面的に解除された2021年10月には51.2となるなど、設備投資意欲が上昇している。
オミクロン株の感染拡大警戒
オミクロン株による感染再拡大により、再び多くの都道府県でまん延防止等重点措置が適用された。食品関連業者からは「どうにか年末は感染拡大することなく持ちこたえてくれてよかった」と書き入れ時の営業時間制限を回避できたことに対する安堵の声も聞かれた。しかし、2021年10月に営業制限が全面的に解除され、これからアフターコロナを見据えて徐々に回復に向かう期待感が強かったなかで、ここにきての感染再拡大による飲食店経営者へのマインド面の影響が懸念される。
飲食店はコロナ以前、人手不足問題に加え、参入障壁が低いことからプレイヤーの増加に伴う競争激化もあり、倒産増加トレンドであった。その後、コロナ禍においてその流れに拍車をかけていたが、協力金給付の開始された2020年12月以降、急激に倒産件数は抑制傾向にシフトした。昨年秋以降、営業制限が全面的に解除となった際に再度人手不足問題が顕著に表れたことで、改めて課題として認識した企業も多いはずだ。現状、倒産件数は引き続き抑制傾向で推移しているが、回復局面で再度直面した人手不足問題、さらに原材料価格の高騰など課題は多い。
アフターコロナを見据え、人材確保や業態転換、設備投資など、移り変わる消費者のニーズに対してどのような施策を打ち出すことができるかがカギとなるだろう。一方で、元々淘汰の流れを向かえていたなか、コロナ禍にて金融機関からの融資や協力金などで、事業を継続できている企業も一定数あるとみられる。有利子負債月商倍率も大幅に上昇しており、過剰債務を抱えている企業など、回復局面において飲食店の淘汰が進む可能性もある。