米穀機構のプレスリリース
公益社団法人 日本医師会と公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構は、2018 年11 月15 日(木)、日本医師会館大講堂(東京・駒込)において、ごはんを主食とした日本型食生活の有用性等について考える「食育健康サミット2018」を開催、約560 人の医師、管理栄養士・栄養士等が参加しました。
本サミットにおいては、働き盛りの青・壮年期は、その人自身の老年期に影響を及ぼすだけでなく、次世代の健康にも影響を与える重要な世代であるにもかかわらず、他の世代に比べて食事の内容がアンバランス、朝食を食べない等の課題が多いと考えられることから、青・壮年期からの運動習慣と適正な食生活への改善が必要であることや、米を中心とした日本型食生活の有用性が示唆されました。
【各講演の主なポイント】
●低炭水化物食による健康維持は否定的な成績が多い
日本医科大学名誉教授/複十字病院糖尿病・生活習慣病センター長 及川 眞一 先生
近年、糖質制限食が注目されたが、長期的な健康維持に貢献する成績はみられない。長期的な健康維持のためにはむしろ、様々な食材を組み合わせた食事が大切であり、これにはごはんを中心とした日本型食生活が適している。
●フレイル・認知症予防には運動と栄養の両面からの対策を
桜美林大学老年学総合研究所 所長 鈴木 隆雄 先生
フレイル対策は、運動、栄養、心の問題のどれかひとつではなく、トータル的な支援が必要。また、認知機能低下の予防において、ごはんを中心とした日本型食生活に代表されるバランスのよい食事が重要。
●加工食品と外食は食物の摂取内容に課題を残す
女子栄養大学栄養学部 教授 武見 ゆかり 先生
壮年期女性は肥満とやせの二極化がみられ、栄養素摂取のバランスに問題がある。加工度の高い調理済食品や菓子類などの利用が多い者ほど食物摂取内容が悪く、女性では肥満のリスク傾向が示された。
●体内時計を整えるためには朝食摂取を、遅い夕食は分けて摂取を
早稲田大学先進理工学部 教授/早稲田大学先端生命医科学センター長 柴田 重信 先生
体内時計リセットには、インスリン分泌を促す朝食摂取が必要。夕食を遅く摂る場合は、主食を夕方に摂り、主菜・副菜を遅い時間に摂ると、肥満予防や体内時計の夜型化防止に寄与する。
【食育健康サミット2018 開催概要】
■日 時: 2018年11月15日(木) 13:30~17:00
■会 場: 日本医師会館 大講堂
■テーマ: 「健康長寿を迎えるための青・壮年期の健康管理と日本型食生活」
■主 催: 公益社団法人日本医師会 公益社団法人米穀安定供給確保支援機構
【講演Ⅰ】
青・壮年期の健康課題と食事・運動-日本型食生活の医学的有用性を中心に-
日本医科大学名誉教授/複十字病院糖尿病・生活習慣病センター長 及川 眞一 先生
近年、糖尿病が強く疑われる者は漸増しており、特に50歳代から急増している。しかし、この問題は50歳代で始まるわけではなく、青・壮年期からの肥満増加や運動量不足の影響を受けている。同時に、血糖値の急激な変動を引き起こす欠食も大きな要素だと考えられる。精白米の摂取が糖尿病発症のリスクになりうるという議論があるが、摂取のタイミングや量、組み合わせなどについては十分に検討されていない。たとえば、同じ量の精白米を摂っても、単独で食べるときと様々な食材を組み合わせて食べるときとで、血糖の上昇は大きく異なる。
近年、糖質制限食が注目され、短期的にはよい結果が出ているものの、長期的には推奨する根拠となる結果はみられない。糖尿病や動脈硬化症の発症には、糖質が多すぎても少なすぎてもよくなく、適度な糖質を摂り、様々な食材を組み合わせたバランスのよい食事がやはり大切である。
「ごはんを中心とした日本型食生活」は、様々な食材を組み合わせる食事パターンに適している。
【講演Ⅱ】
壮年期からのフレイル・サルコペニア予防における食生活の意義
桜美林大学老年学総合研究所 所長 鈴木 隆雄 先生
高齢者の身体能力は年々向上しており、特に前期高齢者はヘルスリテラシーも高く、活動的な傾向がある。一方で、後期高齢者になると加齢にともない、ロコモティブシンドロームやサルコペニアなどの身体的虚弱、うつや認知症などの精神・心理的虚弱、孤独や閉じこもりなどの社会的虚弱が進み、健康と要介護の間の状態であるフレイルが問題となる。
フレイルやプレフレイルには、運動、栄養、心の問題のどれかひとつではなく、トータルで良好な方向に向くように支援すると、状態を比較的悪化させないことがわかっている。認知症については、前段階である軽度認知障害(MCI)の時点での運動と栄養の両面からの対策が着目されている。中でも、ごはんを中心とした日本型食生活に代表されるバランスのよい食事が認知機能の低下を予防することが、国内外の研究から明らかにされている。
【講演Ⅲ】
壮年期女性の生活習慣と健康、特に日本型食生活の役割を中心に
女子栄養大学栄養学部 教授 武見 ゆかり 先生
壮年期女性において、肥満とやせの二極化が進んでいる。健康日本21(第二次)の中間評価では、40~60歳代女性の肥満者(BMI 25kg/m2以上)は減少せず、50歳代女性では増加さえみられる。一方で、若い女性だけでなく壮年期女性においてもやせ(BMI 18.5kg/m2未満)の割合が増加傾向にある。
壮年期の前段階である青年期では、たんぱく質や野菜・果物の摂取量が少なく、脂肪エネルギー比、特に飽和脂肪酸エネルギー比は高いなど、栄養素の摂取バランスに問題がある。その要因として、日本人の食物消費の7割余りを加工食品と外食が占めていることが考えられる。食品の加工の程度や加工目的による分類枠組み「NOVAシステム」において最も加工度の高い食品であるUPF(ultra-processed food)の摂取割合と、肥満、高血圧、メタボリックシンドロームとの関連が諸外国で報告されている。日本人においても、UPFの利用が多い者ほど栄養素のバランスが崩れ、野菜摂取量が少なく、女性では肥満のリスク傾向が示された。バランスのよい栄養素の摂取のためには、UPFの利用を控え、精製度の低い米・ごはんを主食として主菜と副菜を組み合わせた日本型の食事が推奨される。
【特別講演】
時間栄養学の観点から考える上手な炭水化物の摂り方
早稲田大学先進理工学部 教授/早稲田大学先端生命医科学センター長 柴田 重信 先生
我々の体には、約24.5時間周期のリズムを刻む体内時計が備わっている。体内時計は脳と末梢組織の両方にあり、朝の光が脳の時計に強く影響して一日の時計を合わせる一方で、内臓など末梢の時計は食事で合わせることがわかっている。食後に血糖が増えると分泌されるインスリンは、血液中のブドウ糖を細胞に取り込んで血糖値を一定に保つ働きのほか、体内時計を調整するという働きもあるので、朝の光を浴びるだけでなく、朝食で十分な炭水化物(ごはんなど)を摂り、脳と末梢の時計を合わせる必要がある。一方で、夜遅い時間に糖質を食べると体内時計が夜型化してしまうため、夜遅い食事のときは炭水化物を控えめにする、あるいは主食は夕方に、主菜、副菜は遅い時間と、2回に分けて食べるなどの工夫が大切である。
さらに、炭水化物の上手な摂り方としては、朝食に炭水化物と水溶性食物繊維を合わせて摂取すると血糖値の上昇が抑えられ、さらにセカンドミール効果※で昼食・夕食時の血糖値の上昇も穏やかになる。また、夕食での食物繊維の摂取に比較して朝食で摂取すると、糞便の短鎖脂肪酸を増やし便通をよくすることからも、朝食には食物繊維も含まれている玄米などを主食とした食事も適している。
※セカンドミール効果:1日の最初の食事が、次の食事(セカンドミール)後の血糖値に影響すること。
【パネルディスカッション】
座長の寺本民生先生の進行で、「健康長寿を迎えるための青・壮年期の健康管理と日本型食生活」をテーマに、特に参加者からの質問が多かった「青・壮年期の健康対策としての食生活と運動のあり方」「青・壮年期の栄養摂取のポイント」「健康長寿を迎えるための青・壮年期における“ごはんを主食とした日本型食生活”のよさ」について、パネリスト4 人の先生にそれぞれの知見に基づいたコメントをいただきました。
<青・壮年期の健康対策としての食生活と運動のあり方>
■武見先生は、偏りなく食物や栄養素の摂取目標を達成するためには、1日3回の食事が適していることを解説しました。目標達成に向けて、生活や経済力を鑑みて個人ができることから始めること、そして職場の体制整備も重要であると訴えました。
■柴田先生は、時間栄養学の観点から、同じ1日3食でも時間がずれると脳の体内時間と内臓の体内時計がずれてしまうと述べました。
■及川先生は、青年期の運動不足解消のためは、まず正しい運動の仕方や運動をする環境・状況づくりの大切さを知識として持ってもらうことが重要だと話しました。及川先生自身はスニーカーをはいて動きやすい服装で通勤するという状況を作り、最寄り駅から職場まで行き帰りとも歩き、汗をかくような運動をしていることを紹介しました。
■鈴木先生は、若い女性の摂取エネルギー量の低下傾向が続いていることに触れ、栄養不足、特にビタミンD摂取の不足が、高齢期で顕在化する運動器の老化を招いていることを示唆しました。さらに、戦後以来70年ぶりにくる病が発生していることについて、危機感を訴えました。
<青・壮年期の栄養摂取のポイント>
■武見先生は、「食事バランスガイド」はあくまでも成人向けであり、子ども向けではなく、高齢者も個人差が大きいため応用が必要であることを説明しました。
■鈴木先生は、フレイル予防のためのたんぱく質の摂り方について、動物性たんぱく質が重要であるものの、日常の生活機能を維持するための筋肉維持には摂取のタイミングまではこだわる必要はないと話しました。摂取目標量は体重1kgあたり1g/dayであり、高齢者に多い慢性腎不全の場合でも中等度未満であれば制限の必要はないが、中等度以上の場合は6~7割に抑えるべきであると説明しました。
また、糖質制限に関連して、これを食べるとこれによい(単品栄養主義)、これを食べたらいけない(単品排除主義)では栄養素の摂取バランスを崩すことに注意すべきだと訴えました。
■及川先生は、糖質制限食について、短期的には有用というデータが多くみられるものの、長期的には体重はむしろ増加すると説明しました。炭水化物は様々な食材を組み合わせて摂ることにより体重・血糖いずれの面でも問題はなく、糖質制限食を勧める必要はないと述べました。
■武見先生は、糖質制限として主食のごはんは減らして菓子を食べる女性もいるが、我々は主食であるごはんから糖質だけを摂っているわけではなく、食物繊維などの栄養素までも不足してしまう糖質制限のリスクを強調しました。
■柴田先生は、時間栄養学の観点から、体内時計をリセットするブドウ糖の働きを考慮して摂取する時間帯を決めるなど、効果的な糖質摂取について示唆しました。
<健康長寿を迎えるための青・壮年期における“ごはんを主食とした日本型食生活”のよさ>
■武見先生は、唯一味がない主食であるごはんは、ほかの食材と組み合わせやすく、栄養素の摂取バランスが整いやすいことを話しました。また、重湯からおかゆ、普通のごはんまで、食べ手の健康状態、咀嚼の問題に合わせた変化を家庭でも簡単に作りやすいというごはんのよさを再認識すべきだと述べました。
■座長の寺本先生は、何よりバランスのよい食事が大切であり、そのためにはごはんを中心に置いて考えるとよいと話しました。
【総括】
帝京大学臨床研究センター センター長/寺本内科・歯科クリニック 内科院長 寺本 民生 先生
最後に、座長の寺本先生は、生活習慣病を考える際には、その世代だけではなくてすべての世代がつながっているという考え方でみる必要があると述べました。
青・壮年期にはたくさんの健康課題があるが、その中で食生活に注目すると、まず朝食の欠食をいかに抑えていくかが課題であり、インスリン分泌が体内時計を調節していることからも炭水化物の摂取が必要で、炭水化物を上手に摂るには栄養のバランスと摂取のタイミングが大切、それには多様な食材と組み合わせることができるごはんを主食とした日本型食生活を取り入れることが適切であると、このシンポジウムをまとめられました。