タンニンのタンパク質凝集モデルの作成に成功

岐阜大学のプレスリリース

タンニンのタンパク質凝集モデルの作成に成功 ポリフェノールの渋みや生物活性メカニズムの解明に期待―
 
【本研究のポイント】
・タンニンの構造を核磁気共鳴分光 (NMR)法とチオール分解法で明らかにしました。
・このタンニンがコラーゲン分解酵素であるMMP-1の活性を阻害し、凝集させました。
・NMR法、ドッキングシミュレーションにより、タンニンのタンパク質結合位置を推測しました。
・NMR法の結果を基にタンニンとタンパク質の凝集モデルの作成に成功しました。
 
【研究概要】
 岐阜大学応用生物科学部山内恒生助教のグループは、タンニン 注1)のタンパク質凝集モデルの作成に成功しました。タンニンは代表的なポリフェノールのひとつであり、多くの生物活性が報告されている他、食品の渋み成分としても知られています。これらはタンニンのもつタンパク質への強い相互作用が原因であると考えられていましたが、これまでタンニンのタンパク質への作用様式は分子レベルで明らかにされていませんでした(図1)。本研究において、タンニンは中国の漢方で用いられる鶏血藤から分離し、核磁気共鳴分光 (NMR)法 注2)とチオール分解法 注3)で構造解析しました。得られた縮合型タンニンはコラーゲン分解酵素であるmatrix metalloproteinase-1 (MMP-1)  注4)を強力に阻害し、凝集活性も示しました。ドッキングシミュレーション 注5)及びNMRを用いた解析により、これらのタンニンのMMP-1への結合箇所を明らかにしました。この結合箇所を架橋点として、タンパク質同士を繋げることで縮合型タンニンがタンパク質を凝集していると考え、タンパク質凝集の分子モデルの作成に世界で初めて成功しました。タンニンのタンパク質結合様式が分子レベルで明らかになる事で、ポリフェノールの健康効果や、ワインやお茶などの食品の「渋み」のメカニズムが明らかになると期待されます。
 本研究成果は、日本時間2023年3月6日に英国の国際誌であるFood Chemistry誌のオンライン版で発表されました。
 

図1 タンニンの謎 -どの様にタンパク質に作用するのかー
 
【研究背景】
 縮合型タンニンはカテキンの様なフラバン3オールが重合した構造をもつポリフェノールです。抗癌活性や抗炎症活性、血糖値低下作用、抗酸化活性等ありとあらゆる生物活性をもち、お茶やワインの渋み成分としても良く知られています。最近では牛が発生するメタンガスを減少させることが明らかになり、餌にタンニンを混ぜることで温室効果ガスの発生を抑制する試みもなされています。タンニンは様々なタンパク質と結合し、凝集作用を示すことでこれらの多くの作用を引き起こすと考えられていますが、構造やタンパク質への作用様式が複雑であるため、それらの相互作用の分子メカニズムを明らかにすることがこれまで出来ませんでした。これらの理由により、タンニンは天然由来の活性成分としては、謎の多い分子であり、研究者の中では長い間、難解な化合物であるとされていました。
 本研究ではこの謎を解明するために、新しくNMR法を用い、ここにドッキングシミュレーションの結果を合わせて考察することにしました。NMR法では、タンパク質と分子の一対一の結合だけでなく、一対多数の結合箇所を明らかにすることが可能となります。また、液体中のタンパク質の細かな動きを考慮することができ、より実際に近い結合を測定することが出来ます。これらの特徴はタンニンとタンパク質の相互作用を明らかにするために、とても良い方法であると考え、本研究で取り入れることとしました。
 
【研究成果】
 本研究では、中国の漢方である鶏血藤から2種類の縮合型タンニンを分離しました。タンニンを分解することでその構造を解析するチオール分解法に加えて、近年新しく用いられており、非破壊のNMR法を取り入れ構造解析を行いました(図2)。NMR法とチオール分解法で得られた構造は、良好な一致を見せました。得られた2つのタンニンは、どちらも類似したフラバン3オールの単量体を含んでいることが示唆されました。また、これらの縮合型タンニンの構造は珍しいものでなく、多くの食品や植物中にみられる一般的な縮合型タンニンの構造であることが分かりました。両者の平均重合度 注6)が異なり、一方は平均重合度が4程度のタンニン(CT2)で、もう一方は平均重合度が2程度のタンニン(CT1)であることが分かりました。
 
図2 構造解析した縮合型タンニン
 
 本研究ではコラーゲン分解酵素であるMMP-1というタンパク質と縮合型タンニンとの相互作用を調査しました。MMP-1活性試験を行ったところ、CT2はCT1よりも10倍以上MMP-1阻害活性が強いことが分かりました。凝集作用を調査したところ、CT2は濃度依存的に強いMMP-1凝集活性を示した一方で、CT1は凝集活性を示しませんでした。この結果から、タンパク質の凝集には重合度が重要であることが示唆されました。4量体が凝集を示し、重合度が低いと凝集を示さないという結果はこれまでにも報告されており、これらの結果は以前の結果を支持しました。
 MMP-1とCT1及びCT2との結合力を表面プラズモン共鳴法(SPR法)で比較したところ、意外にも凝集活性を示したCT2の結合力が弱く、凝集を示さないCT1の方が強いことが示されました。これはドッキングシミュレーションの結果も同様でした。ドッキングシミュレーションでは、CT1内のすべての原子とMMP-1が相互作用している一方で、CT2は半分ほどの原子しか相互作用していませんでした。CT2は相互作用していない原子が別のMMP-1と相互作用することで架橋し、凝集が生じると考えました。以上の結果から、NMR法で確認されたCT2の結合箇所(図3)を介して、MMP-1同士がつながり、凝集を生じさせている図4のモデルの作成に成功しました。
 

図3 NMR法で示された縮合型タンニン(CT2)のタンパク質結合箇所  黄色、赤、紫の順にタンニンのタンパク質への作用が強い
 
 
4 縮合型タンニンのタンパク質凝集モデル
 
【今後の展開】
 タンニンは血糖値低下作用、抗炎症や高肥満、抗癌活性など様々な生物活性が報告されています。また、ワインやお茶の渋みの原因物質としても広く知られています。ところが、その作用メカニズムは十分に明らかにされていません。タンニンの生体分子への相互作用機序が明らかになる事で、渋みの抑えられたお茶やワインの開発や、より生物活性の高いタンニンの開発に発展することが期待されます。これらの知見を用いて新しい機能性食品やサプリメントの開発が可能になるのではと期待しています。
 
【論文情報】
雑誌名:Food Chemistry
タイトル:Protein aggregation model to explain the bioactivity of condensed tannins
著者:Kosei Yamauchi, Mayu Soyano, Miho Kobayashi, Yuji O.Kamatari, Tohru Mitsunaga
DOI番号:10.1016/j.foodchem.2023.135870
論文公開URL:https://doi.org/10.1016/j.foodchem.2023.135870
 
【用語解説】
1)タンニン:
植物中に広く分布するポリフェノールの一種。加水分解性タンニンと縮合型タンニンに大別される。縮合型タンニンはカテキン類が重合した構造をもち、タンパク質との強い相互作用を示す。
 
2)核磁気共鳴分光 (NMR):
化合物に磁場を与えることにより、その構造2を測定する方法。低分子化合物やタンパク質などありとあらゆる分子の構造解析に用いられている。
 
3)チオール分解法:
チオール化合物を用いてタンニンを分解することにより、得られた分解物を解析することでタンニンの構造を解析する方法。
 
4)MMP-1:
コラーゲン分解酵素のひとつ。コラーゲンを分解することで癌細胞の転移や、しわの原因となることが知られている。
 
5)ドッキングシミュレーション:
コンピューター上でのエネルギー計算により、タンパク質と結合する化合物の位置や結合力を推測することが出来る方法。
 
6)重合度:
ひとつのフラバン3オールを一単位として、それが縮合型タンニンの中でいくつ連なるかを示す指標。例えば4つ連なれば重合度が4となる。
 
【研究者プロフィール】
山内 恒生(やまうち こうせい):論文責任著者・筆頭著者
岐阜大学 応用生物科学部 助教
 
征矢野 真由(そやの まゆ)
岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 2022年 修士号取得, 修了生
 
小林 美穂(こばやし みほ)
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 技術補佐員
 
鎌足 雄司(かまたり ゆうじ)
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 助教
 
光永 徹 (みつなが とおる)
岐阜大学 応用生物科学部 教授
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