雪印メグミルク株式会社のプレスリリース
本研究成果は、栄養と健康に関する国際学術雑誌である「Nutrients」に掲載されました。
当社は、2017年に名古屋大学との産学協同研究講座を設立し、モデル生物を用いた食品の機能性評価を進めてきました。従来の動物実験の代替手法のひとつとして、ショウジョウバエや線虫などのモデル生物を用いた食品の機能評価手法の確立を進めています。これらのモデル生物は、生命現象の解明に広く用いられていますが、食品の機能評価にはまだ十分に活用されていません。ショウジョウバエを用いた研究を進めた結果、睡眠促進効果が高いSBT2786を選抜しましたが、ヒトにおいて睡眠促進効果があるかは明らかではありませんでした。
今回の臨床試験で、SBT2786がヒトにおいても有効であることを確認しました。これは、モデル生物を用いたスクリーニングによって機能性を見出した結果が、ヒトにおいても有効性を示した成功例であり、食品の機能性研究の新たな可能性を示す成果です。
今後、本研究をさらに進め、お客様の健康と豊かな食生活に貢献できる商品の開発に取り組んでまいります。
■論文の要約
≪背景・目的≫
現代社会では、生活スタイルの変化や不規則な勤務時間、健康に悪い習慣の普及などにより、睡眠障害や睡眠の乱れが増加しています。睡眠不足は、昼間の眠気や生産性の低下だけでなく、心血管疾患、肥満、糖尿病、うつ病などの身体的・精神的健康問題とも強く関連しているため、大きな問題となっています。
ショウジョウバエは、睡眠様行動をとることが知られており、その睡眠制御システムは哺乳類と類似しています。ショウジョウバエを用いたスクリーニングにより、SBT2786を睡眠促進効果が期待できる菌として選別後、SBT2786がヒトにおいても睡眠改善効果を示すかどうかを確認するため、臨床試験を実施しました。
≪試験について≫
▽試験方法:プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験
▽対象者 :日常生活で睡眠に不満を持つ日本人成人男女のボランティア被験者
▽期間 :4週間
▽種類 :2つの群に分けて実施(毎日摂取)
(1)SBT2786を1,000億個含むカプセルを摂取する群
(2)効果を持たないカプセル(プラセボ)を摂取する群
▽評価方法:3つの方法で評価
(1)脳波計による睡眠状態の把握
(2)複数のアンケートによって睡眠満足感に関する評価
(3)気分状態を評価するアンケート
≪結果≫
SBT2786を摂取した群では以下のことが示されました。
・摂取したすべての被験者において、睡眠時間が延長するとともに、ネガティブな気持ちが改善されること
・摂取した群の中で、ストレス状態が高い方を対象にさらに解析を行ったところ、睡眠時間が延長するとともに、睡眠満足感が改善されること
■発表概要
論文題名 ビフィズス菌SBT2786は比較的ストレスレベルの高い日本人成人の睡眠の質を改善する:プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験
(英語原題:Bifidobacterium adolescentis SBT2786 Improves Sleep Quality
in Japanese Adults with Relatively High Levels of Stress: A Randomized,Double- Blind, Placebo-Controlled Study)
著者:村上 弘樹1、大内 はるか1、神 太郎1、難波 利治2、海老原 淑子3、小林 俊二郎1
1雪印メグミルク株式会社、2CPCC株式会社、3チヨダパラメディカルケアクリニ
ック
掲載誌:Nutrients 2024, 16, 1702.
https://doi.org/10.3390/nu16111702 (2024年5月31日付)
【関連リリース】
・2017 年5 月9 日:https://www.meg-snow.com/news/files/20170509-1343.pdf
タイトル:名古屋大学における産学協同研究講座「栄養神経科学講座」の開設について
・2023年4月28日:https://www.meg-snow.com/news/2023/18595/
タイトル:名古屋大学との産学協同研究講座においてビフィズス菌 Bifidobacterium
adolescentis SBT2786 が睡眠を促進することを確認
●用語解説
・Bifidobacterium adolescentis(ビフィドバクテリウム アドレセンティス):
ヒト成人の腸管に生存するビフィズス菌の優勢種の一つ。
・モデル生物:
普遍的な生命現象について明らかにするための研究に用いられる生物のこと。
その中でもショウジョウバエは、短い生命サイクルと遺伝子操作の容易さから、遺伝学や生物学の分野で古くから用いられてきました。哺乳類の睡眠に類似した行動を示すことから、睡眠のメカニズムを明らかにする研究にも用いられています。
・プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験:
効果を確かめるための信頼性の高い試験方法の1つ。
参加者はランダムに2つのグループに分けられ、参加者も医師もどのグループに属しているかを知らない状態で試験を実施します。
・脳波計:
脳の電気的活動を記録することで、睡眠状態(睡眠のステージ判断など)を評価することが可能となります。