業界の課題や今後の官民連携に向けた提言について報道機関向け説明会を開催
一般社団法人細胞農業研究機構のプレスリリース
細胞性食品(いわゆる 「培養肉」など)のルール形成に関する研究団体、一般社団法人細胞農業研究機構(東京・中央)は、「細胞性食品分野における官民間連携推進による情報収集体制強化及び対応施策の検討加速に係る提言」を10月21日(月)に消費者庁及び農林水産省へ提出しました。また同日に、「培養肉」に係る関係省庁・産業・アカデミアなどとの議論状況や、日本として対応を検討する際の課題や解決に向けた官民連携のための提言内容について報道機関向けの説明会を開催しました。
提言に至った背景と概要
細胞性食品分野について、今後我が国で対応方針を明確化していくためには、官民の連携がより重要と言えます。本来、企業側が実用化に向けて本格的な動きを進めることで行政による対応方針の検討が進み、同時に、行政側が「対応方針」や方針作りの「タイムライン」を示しアップデートしていくことで企業側は実用化を推進しやすくなります。しかしながら、官民間で細胞性食品に係る情報整理が円滑であるとは言い難い状況にあります。官民間での情報整理が滞れば、行政側は限られた情報に基づいて対応の検討をしなければならず、細胞性食品の多様性や発展性を十分に考慮しにくくなる可能性が出てきます。
以上の背景から、我が国の対応方針の明確化・同食品に係る官民間での情報整理の円滑化に向けて、下記2点の提言に至りました。
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上市前の個別相談窓口設置:上市を見据えた、各企業からの個別具体的な情報提供・相談が可能な体制構築(2025年度中の対応を希望)
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上市に関わる法的解釈や手続きの明示化:細胞の生産や細胞性食品の製造・販売などに係る既存法上の解釈や、細胞性食品を食品として扱う上で企業がとるべき手続の明示化
なぜ「今」、日本の対応方針の明確化が重要か – 3つの理由
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細胞性食品の販売手続きに関する政府からの指針がなく、一方で販売を禁止するルールもないという状態は避けたいためです。
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将来的に細胞性食品の国際的・社会的な影響が一層大きくなる可能性に備え、国内の確かな情報源の整備が必要です。政府による対応方針の明確化は、細胞性食品の安全・安心・安定的な生産についての知見構築に繋がり、本分野の実現可能性や社会貢献の可能性を評価する専門家の活動や育成への貢献にも繋がります。
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細胞性食品は日本の技術やソフトパワーなどの強みが発揮される可能性がある分野です。我が国には、細胞培養、細胞の保管・流通、培地開発、自動化、その他素材やエンジニアリングに係る技術、「肉の目利き力」があります。また、繊細な味覚とセンスに裏打ちされた調理技術や食品加工技術を有し、世界的に評価の高い美食の国であり、「かに風味かまぼこ」や「即席カップめん」など様々な食体験を実現してきました。政府による対応方針の明確化は、日本の国際的競争力を醸成する環境整備に繋がる可能性があります。
提言書の全文
こちらからご確認いただけます。
一般社団法人細胞農業研究機構代表・吉富からのメッセージ
この度、国内における細胞性食品への理解が進み、実態に沿った対応方針の検討が加速することを期して、提言を作成しました。これまでに、官民間の同食品に係る情報整理の円滑化に向けて、細胞農業研究機構では様々な取り組みを行っています。例えば、細胞性食品の安全性などに関する、情報整理ガイドラインの作成と企業への周知、国際動向の整理などを進めてきました。
これは、新しい技術を推進一辺倒としたいわけではなく、技術内容や社会的影響をまず理解した上で、日本の国益(国・産業・国民)に照らして当該技術を積極的に推進するべきかどうかについて議論を進めるべきという想いからです。本提言も、細胞性食品に関わる技術への理解や議論を進めていく素地づくりに繋がりましたら幸いです。
取材お問い合わせ先
細胞農業研究機構事務局 Admin(アットマーク)jaca.jp ※(アットマーク)は@に変更してください。
細胞農業、細胞性食品とは
「細胞農業」とは動物や植物から採取した細胞にアミノ酸やグルコースなどの栄養を直接与えることで増やし、食品として生産する技術です。「細胞性食品」とは細胞農業技術を用いて生産した肉や魚などを指し、細胞性食品のうち、細胞性食肉は「培養肉」と呼ばれることもあります。細胞性食品には環境負荷の低減やたんぱく質自給率の向上に貢献するなどの様々な可能性が期待されていますが、一方で様々な技術的課題もあり、当該産業の実現性については客観的な分析が必要です。
細胞農業研究機構とは
細胞農業研究機構は、(1)正確な情報の把握および誠実な発信、(2)国益(安全保障、経済、消費者等)に貢献するような仕組みづくり、(3)日本による国際的な議論への参画促進を目的として設立された研究団体です。食品としての安全性評価や表示方法、細胞提供者の権利保護、消費者への情報提供の在り方などについて議論し、透明性の高い形で産業の形成に努める約50の企業やアカデミアで構成されています。2019年の前身組織から活動を開始し、2022年12月に法人化。細胞農業領域のルール形成に特化した国内唯一の団体であり、また、各国で活動を展開する様々な団体と比べても、会員企業数は同領域で世界最大規模となります ※1。
※1 グローバルの代表的な業界団体であるAMPS Innovation(米国企業群が立ち上げた“肉・鶏肉・水産物イノベーション同盟”。2022年に法人化し9団体が所属)、CAE(欧州企業を中心とした“欧州細胞農業団体”。2021年に設立され、14団体が所属)、APAC-SCA(12の団体が加盟する“アジア太平洋細胞農業協会”。加盟企業の多くが細胞農業研究機構やCAEに所属)との比較(出典:吉富 愛望アビガイル(一般社団法人細胞農業研究機構)/ 鈴木 健夫(株式会社マイオリッジ)/井形 彬(東京大学先端科学技術研究センター)監修『細胞性食品の将来展望 細胞性食肉の普及における課題や実装への技術・社会的取り組み』AndTech(2023年出版))