中央酪農会議のプレスリリース
酪農業を営んでいる全国の酪農家236人を対象に、経営状況に関する緊急調査を行った結果、酪農家の6割が赤字で、8割が経営環境の悪さを感じていました。また、生産コストの上昇や収入の減少に直面し、酪農家の半数が離農を検討しています。一方、月1回以上牛乳等を購入している生活者の98%は、国産の新鮮な牛乳を飲める環境を維持したいと回答しています。
世界的な乳製品の需給のひっ迫が懸念される中、酪農家の減少が続けば、国産の牛乳・乳製品が入手しにくくなる可能性が懸念されます。北海道大学大学院農学研究院の小林国之准教授は、「持続的な酪農経営のためには、経営構造のシフトが必要です。そのためにも経営転換への支援と、消費者との対話と理解が不可欠です」とコメントしています。
日本の酪農家が1万戸割れ。酪農家減少の現状は、牛乳等の購入者の65%に認知されず
■指定団体で受託している酪農家の戸数は1万戸を割り9,960戸に減少。しかし、日本の酪農家が約1万戸まで減少している現状は、月1回以上牛乳等を購入している生活者の65.4%に認知されていない状況。
日本の酪農家の6割が赤字。8割が経営環境の悪さを感じ、半数が離農を検討
■ 酪農家の58.9%が、今年9月の経営状況について赤字と回答。酪農家の約半数(47.9%)が離農を検討。
■ 現在の酪農経営の環境について、酪農家の83.1%が「悪い」と感じており、「とても悪い」が5割を占める。経営悪化の要因は、「円安」(91.8%)、「原油高」(68.4%)、「ウクライナ情勢」(67.9%)。
■ 酪農家の98.7%が「上昇している生産コスト」、 96.2%が「減少している収入」があると回答。上昇を感じる生産コストは、「濃厚飼料費(配合飼料等)」(94.4%)、「農機具費」(86.7%)、「光熱水料・動力費」(81.1%)等。 減少を感じる収入は「牛販売の収入」(95.2%)等。
牛乳等購入者の9割以上が、新鮮な国産牛乳が飲める環境維持を求め、酪農家を応援・支援したいと回答
■牛乳等を月1回以上購入している生活者の98.0%が「国産の新鮮な牛乳が飲める環境を維持したい」、97.3%が「日本の酪農家を応援したい」、91.1%が「日本の酪農の生産基盤を維持するために、消費者として支援する行動をしたい」と回答。
<調査概要>
日本国内の酪農家の戸数※の推移(※)指定団体で受託している酪農家の戸数
■2024(令和6)年10月、日本国内の酪農家は1万戸割れ 一般社団法人中央酪農会議(所在地:東京都千代田区)は、指定団体で受託している酪農家の戸数を集計した結果、2024年10月に初めて10,000戸を割り、9,960戸にまで減少しています[図1]。
下記は指定団体の受託農家戸数の前年同月比増減率です。2022(令和4)年以降に、酪農家戸数の減少が加速していることがわかります[図2]。
日本の酪農家の経営状況に関する調査
■ 日本の酪農家の8割が経営環境の悪さを回答。要因は「円安」「原油高」「ウクライナ情勢」
現在、酪農業を営んでいる全国の酪農家236人を対象に、経営状況に関する緊急調査を行いました。現在の酪農経営の環境を聞くと、半数が「とても悪い」(50.0%)、33.1%が「まあ悪い」と答え、酪農家の83.1%が経営環境が「悪い」と感じています[図3]。経営環境が悪いと感じる196人に、悪い影響を与えている要因を聞くと、「円安」(91.8%)が最も多く、次いで「原油高」(68.4%)、「ウクライナ情勢」(67.9%)が挙がりました[図4]。
■コスト高・収入減の厳しい経営環境。酪農家の6割が「赤字」、半数が「離農」を検討
酪農家の98.7%が「上昇している生産コスト」、 96.2%が「減少している収入」があると回答[図5]。上昇を感じる生産コストでは、「濃厚飼料費(配合飼料等)」(94.4%)、「農機具費」(86.7%)、「光熱水料・動力費」(81.1%)等、減少を感じる収入は「牛販売の収入」(95.2%)等が挙がっています[図6] 。2024年9月の経営状況を聞くと58.9%が「赤字」でした[図7]。このような厳しい環境の下、酪農家の約半数が離農を考えることがある(47.9%)と答えています[図8]。
■社会に訴える酪農家の声
酪農経営が悪化する中で、社会に伝えたいことを酪農家に聞きました。「酪農家が減少し続ければ、日本の食卓から乳製品と牛肉が気軽に食べ(ら)れなくなります」「酪農経営は365日休まず生乳を生産してます。牛乳や乳製品などを少しでも多く消費してもらいたいです」等の声が届いています。
生活者(月1回以上の牛乳等の購入者)の調査
■月1回以上牛乳等を購入している人の9割以上が「国産の新鮮な牛乳が飲める環境を維持したい」一方、3分の2は、日本の酪農家が約1万戸まで減少している状況を「知らない」
月1回以上牛乳等を購入している生活者2,884人を対象に、日本の酪農について聞きました。
国産の新鮮な牛乳が飲める環境を維持したいと思うか聞くと、98.0%(「とても思う」65.5%+「まあ思う」32.5%)が維持したいと答えています[図9]。
一方、日本の酪農家が約1万戸まで減少していることについて知っているか聞くと、42.5%が「あまり知らない」、22.9%が「まったく知らない」と答え、月1回以上の牛乳等の購入者の65.4%、3人中2人は「知らない」のが実態です[図10]
■9割以上は「日本の酪農家を応援したい」、「支援する行動をしたい」
国産の新鮮な牛乳が飲める環境を維持してくためには、その土台となる日本の酪農の生産基盤の維持が不可欠です。日本の酪農家を応援したいと思うか聞くと、57.9%が「とても思う」、39.5%が「まあ思う」と答えており、97.3%が日本の酪農家を応援したいと答えています[図11]。また、日本の酪農の生産基盤を維持するために、消費者として支援する行動をしたいか聞くと、91.1%(「とても思う」30.9%+「まあ思う」60.2%)が支援したいと答えています[図12]。
新鮮でおいしい牛乳が毎日飲めること、そして日本の食卓の安全・安心のためにも、日本の酪農の生産基盤を維持し、継承していくことが不可欠です。そのためにも消費者の皆様の協力が必要な状況です。
参考情報・専門家の視点
参考情報(世界的な乳製品の需給ひっ迫)
世界の牛乳・乳製品の将来の需要予測については、100か国以上の酪農乳業関係の団体・企業や大学教授・研究者などでつくる専門家のネットワーク「国際酪農比較ネットワーク(IFCN)」(本部・ドイツ)が詳細な分析を定期的に出しています。
IFCNによると、日本を含めた東アジア・東南アジアの1人当たり消費量(生乳換算)は、現在は38キロですが、経済成長や食生活の欧米化などから2030年には7キロ増えると予測しています。世界平均の125キロから見れば、まだ少ない水準ですが、仮に世界平均レベルまで増えるとすると、必要になる生乳の量は1億9300万トンとなります。これは米国の現在の年間生産量の約2倍、日本の年間生産量の約26倍に相当します。これらの分析は、今年6、7月に北海道で開かれたIFCNの年次研究会合で示されました。IFCNは今年10月には、2024年の概観として「世界の生乳不足に対する持続可能な解決策を探る」と題し、「2023年、(インドとパキスタンを除く)世界の生乳供給量の伸びは前年に比べて1.3%増加した。しかし、この伸びは5年平均を400万トン下回っており、世界的な生乳不足が進行していることに大きな懸念が生じている」と分析しました。
出典:一般社団法人Jミルク「国際酪農乳業ファクトシート」No.1
専門家の声 持続的な酪農経営にむけ経営構造のシフトが必要
そのためには、経営転換への支援と、消費者との対話と理解が不可欠です
2010年過ぎまで、全国的に酪農経営の状態は良いものではありませんでした。酪農家戸数の減少が大きく進んでいた中で、酪農経営は省力化技術を導入した規模拡大、購入飼料による一頭あたり乳量の増加という方法でビジネススケールの拡大を図り、収益の確保を進めました。堅調な個体販売も相まって、適切な収益の確保できる経営になりかけたその矢先に、飼料価格だけではなく、様々な資材価格が高騰するといういまの酪農危機がやってきました。
酪農危機は複数の要因によってもたらされていますが、穀物や資材価格の高止まりなどの要因は、ニューノーマルになると想定されます。つまり、高コスト時代の酪農経営のあり方への転換が、今求められているといえるでしょう。
こうした転換はすぐにはできません。農業の中でも特に酪農は転換に時間が必要です。仔牛を育ててから生産が始まるまでのタイムラグ、さらに施設・機械への投資が多額となり、回収期間も長いという特徴が有ります。短期間で構造を変えることが難しいのが酪農経営ですので、中期的なビジョンをもって取り組みを進めていく必要があります。
個別の酪農経営として、現状の中でも対応できることはあります。他の経営でうまくいっているところから学び、それを経営に取り入れ改善するなどもその一例です。しかし、そうした個人では対応できない課題もあります。現状で厳しい状況におかれている酪農家が、さらにこうした課題に取り組んでいこうという意欲を持つためにも、酪農家はもちろん、関係団体、さらには消費者の人達とともに、これからの日本酪農の存在理由とそのあり方について対話、コミュニケーションをおこない、理解の醸成を進めていくことが不可欠です。
小林 国之(こばやし くにゆき)
北海道大学大学院 農学研究院准教授(地域連携経済学研究室)
1975年北海道生まれ。北海道大学大学院農学研究科を修了の後、助教を経て、2016年から現職。
主な研究内容は、農村・農業振興に関するネットワーク組織や協同組合などの非営利組織、リジェネラティブ農業におけるソーシャルラーニング、新規参入者や農業後継者が地域社会に与える影響など。主著に『農協と加工資本 ジャガイモをめぐる攻防』(日本経済評論社、2005)、『北海道から農協改革を問う』(編著/筑波書房、2017)、『北海道農業の到達点と担い手の展望』(編著/農林統計出版、2020)、『牛乳から世界がかわる 酪農家になりたい君へ』(農文協、2024)などがある。家の光協会『地上』にて「これからの協同のあり方研究室」を連載中。