~ゲルの壊れにくさを最大約40倍向上、食品や化粧品など幅広い分野での応用に期待~
ミヨシ油脂株式会社のプレスリリース
ミヨシ油脂株式会社(本社:東京都墨田区、代表取締役社長兼CEO:三木逸郎)は、広島大学と北海道大学との共同研究論文を発表しましたのでお知らせします。

◆本研究成果のポイント
・食品への応用が期待されるオレオゲル(※1)について、結晶化の際に行う温度調整工程であるテンパリングの温度を調整し、結晶の「長さ」を制御することで、材料の硬さを示す貯蔵弾性率(※2)が大きく向上することを確認。
・オレオゲルを構成する脂質ウィスカー結晶(※3)の「形状」を、不純物の取り込みによって制御することで、ゲルの壊れにくさを示す機械的強度(臨界ひずみ)(※4)を最大約40倍に高められることを実証し、食品等のテクスチャ制御が可能になることを示した。
・結晶の「長さ」と「形状」という2つの要素を制御する新たな手法により、従来技術に比べ、安定的なオレオゲルの作製が可能となり、植物性食品(プラントベースフード、以下PBF)(※5)の食感改良(植物性代替肉のジューシーさなど)に貢献できるオレオゲル作製の基盤技術の確立に期待。
◆概要
広島大学大学院統合生命科学研究科 中野郁也 氏(修士課程1年)、小泉晴比古 准教授、上野 聡 教授、ミヨシ油脂株式会社 大石憲孝 博士、浜本一洋 氏、北海道大学低温科学研究所 木村勇気 教授、山﨑智也 准教授との共同研究により、オレオゲルを構成する脂質ウィスカー結晶の形態制御技術を確立しました。
世界的な人口増加に伴い食糧供給の安定化が求められる中、タンパク質供給源としてPBFが注目されています。しかし、その大きな課題は「ジューシーさ」の再現が難しい点が挙げられます。オレオゲルは、この課題を克服する強力な手段とされています。本研究では、オレオゲルのゲル化剤として食経験が豊富な油脂(トリアシルグリセロール)である高純度PSP(1,3-ジパルミトイル-2-ステアロイルグリセロール(※6)を使用しました。そして、オレオゲルの物性(硬さや機械的強度)が、脂質ウィスカー結晶の「長さ」と「形状」の制御によって決定されることを明らかにしました。具体的には、結晶化の際に行う温度調整工程(テンパリング)の温度が上がると、結晶の長さが増し、貯蔵弾性率が増加することを明らかにしました。さらに不純物を意図的に利用することで結晶の形状を蛇行状に変え、臨界ひずみ(機械的強度の指標)を最大で約40倍も向上させられることを示しました。
この成果は、オレオゲルのテクスチャを自在に制御できる新たな基盤技術を確立するものです。PBFやパン、菓子、調味料といった加工食品だけでなく、サプリメントや化粧品、さらには工業製品まで、オレオゲルのテクスチャ制御が重要となるさまざまな分野での応用が期待されます。
本研究の成果は、国際的な科学雑誌Food Research Internationalのオンライン版に2025年12月4日付で掲載されました。
◆背景
地球規模での人口増加により食料不足のリスクが高まる中、持続可能な食料供給源として、大豆などの植物由来原料を用いたPBFが注目を集めています。その中でも代替肉は、ハンバーガーやソーセージなどの形態で既に市場に出回っていますが、動物性脂肪が持つ「ジューシーさ」を再現することが難しく、消費者への普及を妨げる主要な課題となっています。オレオゲルは、液体油を多量に保持するネットワーク構造を形成することで、代替肉のジューシーさの再現に強い可能性を秘めています。しかし、従来のオレオゲルに使用されるゲル化剤(低分子有機ゲル化剤など)には、食品としての利用経験が乏しいものが多いという課題がありました。
研究グループはこれまで、食経験が豊富なトリアシルグリセロール(TAGs)に着目し、完全水素添加パーム中融点画分(FHHPMF)(※7)を用いれば、僅か0.5 wt%という少量の添加濃度でゲル化が起こること、また、透過型電子顕微鏡(TEM※8)を用いて、これが脂質ウィスカー結晶の形成に起因していることを明らかにしてきました。この脂質ウィスカーオレオゲルは、ネットワークの不安定化が起こりにくく、20℃で4ヶ月間油漏れがないという高い保存安定性を持つため、実際の食品応用への期待が高まっていました。
◆研究成果の内容
本研究では、高純度PSP(FHHPMFの主要成分)を用いて、オレオゲルの物性を制御するための鍵となる、脂質ウィスカー結晶の成長メカニズムを詳細に解明しました。オレオゲルの貯蔵弾性率(ゲルの硬さの指標)を測定したところ、テンパリング温度を30℃以上に高めることで貯蔵弾性率が大きく増加することが判明しました。これは、テンパリング温度の上昇によって脂質ウィスカー結晶の長さが増し(図1)、オレオゲル内部のネットワーク構造がより発達したためです。結晶の成長速度が増加した背景には、高温下で結晶表面が粗くなる「ラフニング転移」が起こり、分子の取り込みサイトが表面全体に増えたことが寄与していると考えられます。また、テンパリング温度を40℃まで上げると、蓄積ひずみが大幅に減少し、結晶子サイズが約240 nmに達することも確認されました。これにより、40℃でテンパリングしたオレオゲル中の脂質ウィスカー結晶のTEM観察では、長周期構造を持つ材料に特有の電子線回折パターンが観測され、結晶品質の著しい向上が示されました。また、高純度PSPから作製された脂質ウィスカー結晶は直線状であるのに対し、不純物を37.2%含むFHHPMFから作製された結晶は蛇行した(波打った)形状を示しました。この形状の違いがオレオゲルの機械的強度に及ぼす影響を調べたところ、蛇行状の結晶形態を持つFHHPMF由来のオレオゲルは、高純度PSP由来のオレオゲルと比較して、ゾル-ゲル転移が起こる臨界ひずみが0.54%から21.2%に増加し、約40倍も高い数値を示すことが判明しました。これは、不純物が結晶に取り込まれることで形状が制御され、より複雑なネットワーク構造が発達したためと考えられます。
これらの結果から、脂質ウィスカーオレオゲルの物理特性を完全に制御するためには、結晶の長さだけでなく、不純物を利用した結晶の形状(形態)の制御が極めて重要であることが示されました。

◆今後の展開
本研究で確立した、脂質ウィスカー結晶の形態を制御することでオレオゲルの物性を自在に設計する技術は、PBFの食感やジューシーさの再現技術を大幅に進展させる可能性を秘めています。この油のゲル(オレオゲル)の硬さやテクスチャを自在に設計する基盤技術は、PBFのみならず、固体脂が使用される食品や化粧品、医薬品など、幅広い製品の安定性向上やテクスチャ設計に応用できることが期待されます。今後は、脂質ウィスカー結晶の形態変化を引き起こし、機械的強度を向上させる効果を持つ特定の不純物成分(トリアシルグリセロール成分)を特定し、さまざまな産業において必要とされるゲル化技術のさらなる最適化を目指します。
◆論文情報
タイトル:“Control of Physical Properties of Lipid Whisker Oleogels by Crystal Morphology Regulation”
著者名:Haruhiko Koizumi1※, Fumiya Nakano1, Noritaka Oishi2, Tomoya Yamazaki3, Yuki Kimura3, Kazuhiro Hamamoto2, Satoru Ueno1
著者所属:広島大学 大学院統合生命科学研究科1,ミヨシ油脂2,北海道大学 低温科学研究所3
責任著者※
掲載誌:Food Research International
掲載日:2025年12月4日(木)
DOI:10.1016/j.foodres.2025.117999
なお、本研究は、JSPS科研費 JP24K01362、及び、北海道大学 低温科学研究所 共同研究 25G022の支援により行われました。また、広島大学から論文掲載料の助成を受けました。
◆用語解説
※1 オレオゲル
液体油を少量(0.5 wt%など)の固体成分(ゲル化剤)のネットワーク構造内に保持させ、固体状にしたもの。バターやラードなどの固体脂肪の代替として、食品のテクスチャ改善を目的として研究が進められている。
※2 貯蔵弾性率
粘弾性を持つ材料の変形に対する弾性(元に戻ろうとする力)の大きさを表す指標。食品の硬さやしっかりとしたテクスチャに関連する。
※3 脂質ウィスカー結晶
非常に細く長く、単結晶構造を持つ繊維状の脂質の結晶。単結晶で構成されるため、ネットワーク構造が不安定化しにくく、高い保存安定性を持つ。
※4 臨界ひずみ
オレオゲルのネットワーク構造が破壊され、固体(ゲル)から液体(ゾル)へ転移する際のひずみの値。この値が大きいほど、そのオレオゲルは外部からの力に対して強く、機械的強度が高いことを示す。
※5 プラントベースフード(PBF)
植物由来原料を用いて作られた食品。肉や卵、ミルクなどの動物性食品を再現したものもある。健康志向や環境意識の高まりを受け注目を集めている。
※6 1,3-ジパルミトイル-2-ステアロイルグリセロール(PSP)
トリアシルグリセロール(TAGs)の一種であり、完全水素添加パーム中融点画分(FHHPMF)の主要な構成成分。
※7 FHHPMF(完全水素添加パーム中融点画分)
パーム油の中融点画分(HPMF)を最大限に水素添加して固形化した油脂。
※8 透過型電子顕微鏡(TEM)観察
電子を使って物質を透かして観察する顕微鏡で、100万分の1ミリ単位の細かい構造まで見ることができる。
【問い合わせ先】
<研究に関すること>
広島大学 大学院統合生命科学研究科 准教授 小泉 晴比古
Tel:082-424-7935
E-mail:h-koizumi@hiroshima-u.ac.jp
ミヨシ油脂株式会社 戦略企画本部 技術研究部 大石 憲孝
Tel:03-3602-8791
E-mail:ooishin@miyoshi-yushi.co.jp
北海道大学 低温科学研究所 教授 木村 勇気
Tel: 011-706-7666
E-mail:ykimura@lowtem.hokudai.ac.jp
<広報・報道に関すること>
広島大学 広報室
TEL:082-424-6762
E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp
北海道大学 社会共創部広報課
Tel:011-706-2610
E-mail:jp-press@general.hokudai.ac.jp
◆ミヨシ油脂株式会社(本社:東京都墨田区、代表取締役社長兼CEO:三木逸郎)
「油脂の力」で暮らしをニッコリ。それが私たちの仕事です。
「あ、このパンおいしい」「このティシュー、肌触りがいいね」など。ミヨシ油脂がつくる製品は、世の中で販売されているさまざまな商品の中に入って、おいしさや使用感、機能性を高めることに役立っています。一人ひとりの心に満足をひろげるものづくり。私たちは高い技術に基づくすぐれた製品の提供を通して、暮らしのすみずみに幸せをお届けしたいと願っています。
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また、研究・商品開発に役立つ情報を発信するWebサイト「ミヨシ未来プラットフォーム」を展開しています。ミヨシ油脂の製品情報や技術情報を知りたい方、商品開発にお悩みの方はこちらをご覧ください。
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【本研究ならびにお客様・報道関係者からのお問い合わせ先】
ミヨシ油脂株式会社 経営企画部 コーポレート・コミュニケーション課
担当:清水
e-mail:info@miyoshi-yushi.co.jp

