〜外食市場26.2兆円のうち水産物由来は約7.3兆円、訪日外国人の33.3%が「日本食」を最も期待 ── 日本経済の「見えない成長エンジン」である水産業の再生に向け、5項目を提言〜
一般社団法人Chefs for the Blueのプレスリリース
日本の海面漁業の漁獲量がピーク時の4分の1以下まで減少するなか、「このままでは魚が食べられなくなるかもしれない」と活動を開始したシェフチーム一般社団法人Chefs for the Blue(本社:渋谷区千駄ヶ谷/代表理事:佐々木ひろこ)は、2026年5月18日(月)、農林水産大臣および水産庁長官に対し、政策提言『”やっぱりサカナが手に入らない!” 〜豊かな海と食の未来を実現するためのシェフの提言3.0〜』を手交しました。本提言は、水産バリューチェーンが生み出す約7.3兆円の外食市場、約533万人の雇用、そして自動車に次ぐ輸出産業となったインバウンド消費(2025年9兆4,549億円)の根幹を支える日本の水産業を「見えない経済成長エンジン」と位置づけ、その再生に向けた5つの具体的措置を求めるものです。


■水産物は日本経済の「見えない」成長エンジン
日本は世界約15,000種のうち3,700種もの魚が生きる豊かな海と、400種類の魚を使いこなしてきた高度な魚食文化を持つ「魚食大国」です。水産物は産地価格から外食段階で7.2倍に価値が膨らむ高付加価値商材であり、2024年の外食市場26.2兆円のうち水産物由来は約7.3兆円(試算値)にのぼります。
さらに、2025年の訪日外国人4,268万人(過去最高)のうち82.8%が「日本食を食べること」を期待し、33.3%が「最も期待」して訪日しています。『ミシュランガイド2026』東京・京都・大阪版の星付きレストラン339店のうち、水産物を中心とする「寿司」「日本料理」「天ぷら」が約65%(221店)を占めており、日本の食の国際的評価は多様な水産物の力に大きく支えられています。また、天然魚は飼料・土地に依存しない、日本で唯一「自給可能」なタンパク質源であり、食料安全保障の観点でも極めて重要な戦略資源です。
■いま、この経済基盤が深刻な危機に直面している
海面漁業の漁獲量は1984年ピークの1,151万トンから278万トン(2024年)へと76%減少。食用魚介類自給率も1964年の113%から半減し、近年は5割台で推移しています。
Chefs for the Blueが2025年5月に全国1,301名の飲食事業者を対象に実施したアンケートでは、
・「市場の物量減」を実感する事業者 95.2%
・「選択肢が減った」 78.1%
・「仕入れの今後に危機感がある」 98.2%
という結果となり、外食産業全体に強い危機感が広がっていることが明らかになりました。
流通段階の歪みも深刻です。マイワシの81%、サバ類の60%が養殖飼料等の非食用に回され、サバ類は総漁獲量の28%が未成魚段階で安価に輸出される一方、大型サバをノルウェー等から高値で輸入する矛盾も生じています。バリューチェーン上流での輸出偏重は、本来国内で生まれるはずの付加価値や雇用ごと海外に流出することに他なりません。
魚食提供の担い手であるシェフ・飲食店の魚離れは、文化存続の危機であるだけでなく、技術継承の途絶による経済基盤の喪失と国内サプライチェーンの空洞化という観点からも極めて深刻です。
■5つの政策提言
こうした課題を踏まえ、Chefs for the Blueは以下5項目を提言しました。
1.沿岸資源管理の科学的強化
沿岸魚種の資源調査・研究のための専用予算を、10年計画で倍増。江戸前鮨の鮨だね62種のうちTAC(漁獲可能量)管理対象はわずか9種にとどまる現状を打開し、付加価値の高い沿岸資源の科学的管理を強化する。
2.天然水産物の食料安全保障上の戦略資源化と、食用優先の資源配分制度化
サバ・イワシなど多獲性魚について食用への優先供給を制度化し、物価高のなかで手頃な国産魚を食卓に取り戻す。クロマグロの資源回復成功例を参考に漁獲最小サイズ規制等を導入し、未成魚漁獲を改めて資源回復と食用大型魚の増加を両立。養殖飼料の魚粉・魚油依存度を10年で半減させる。
3.「水産物国内付加価値額」の政策KPI化
水産業の成長を測る指標として、漁業産出額に水産加工・流通・外食・観光業の付加価値を加えた「水産物国内付加価値額」を新設し、水産基本方針に明記。輸出額偏重から脱し、国内バリューチェーン全体が生み出す価値を見える化して国家戦略に組み込む。
4.水産トレーサビリティ基盤の整備
ブロックチェーン等を活用し、漁業者から外食までのサプライチェーン各段階で低コストな情報伝達の仕組みを実装。資源管理に取り組む漁業者を可視化し、事業者・消費者の「選択」を通じて生産者の取組を支える。
5.外食・観光との連携による魚食基盤の強化
水産基本計画・観光立国推進基本計画・地方創生総合戦略の三計画にまたがる政策パッケージとして、外食・観光産業との連携を位置づけ。シェフ団体・漁業者・水産研究機関・観光事業者・行政が参加するラウンドテーブルを定期開催する。
■提言に参加したシェフのコメント
岸田 周三(Chefs for the Blue 理事/フランス料理店【カンテサンス】オーナーシェフ)

「私の店はフランス料理店ですが、コースのうち6〜7割の料理は魚介が主役です。日本のフランス料理が国際的に高く評価されているのは、世界に類を見ない日本の天然魚の多様性と、漁業者・流通・市場が築いてきた高度な技術があるからこそのことです。しかしこの20年で、良質な魚の確保は格段に難しくなりました。資源が失われれば、料理人の技術だけでは取り戻せないものが失われます。料理の最前線にいる者として、日本の水産業を『経済基盤』として再評価し、国家戦略の中心に据え直すべきだと考え、この提言に至りました」
杉田 孝明(鮨店【日本橋蛎殻町すぎた】主人)

「鮨は、その日に手に入る魚を見極めることから始まります。しかし、市場の物量は年々減り、仲卸の方々が必死に按分してくださっているのが日々の実情です。江戸前鮨の鮨だね62種のうち、科学的根拠に基づいて漁獲量管理されているのはわずか9種。残りの大半は沿岸の多様な魚であり、これは日本の鮨文化の要そのものですが、それらの資源管理に科学の目が行き届いているとは言えず、漁獲は長年にわたり減り続けています。さらに、本来豊洲の仲買に並ぶはずの高品質な魚が、バリューチェーンの各段階、特に上流段階で海外に直接流れる動きも加速しています。沿岸資源の科学的管理と国内バリューチェーンの維持こそが、この文化を守る唯一の道だと感じています」
坂本 健(Chefs for the Blue 理事/イタリア料理店【チェンチ】オーナーシェフ)

「私の店ではメニューの約8割が魚介料理です。市場で選べる魚種が年々減り、いまや事前に確保しなければメニューが組めないのが日常になっています。私は海外でのイベントも多く、アジア諸国をはじめあらゆる国で料理の技術は急速に向上していることも体感していますが、日本の天然魚の多様性と、浜から店までを貫く鮮度管理の総合力は他国の追随を許しません。これこそが、鮨や日本料理はもちろん、あらゆるジャンルにおいての日本のレストランの国際的優位性の源泉です。未成魚を獲らない・提供しないというルールづくりには、私たち料理人が積極的に協力できることもあります。資源を未来に残す責任を、業界全体で担っていきたいと考えています」
林 亮平(日本料理店【てのしま】主人)

「日本料理は、出汁や乾物まで含めると料理のほぼ100%を水産物に依存しています。いま、季節ごとに使ってきた魚が手に入らない、貝類は壊滅的、本物の昆布や鰹節すら入手が困難、という危機的な状況が現場で広がっています。一つひとつの技術は、その魚種がきちんと流通して初めて継承されるもの。素材が消えれば、技術も静かに失われていきます。日本料理の本当の素晴らしさは、四季と地域に根ざした多様な魚と向き合う中で育まれてきました。この提言が、日本という国が世界に誇るこの食文化と経済基盤を、未来につなぐための国家的取り組みとして受け止められることを願っています」
川田 智也(中国料理店【茶禅華】オーナーシェフ)

「中国料理においても、この20年で水産物の品質と多様性が大きく低下していることを肌で感じてきました。質の高い日本の魚介が次々と海外に流出する動きへの危機感は強く、これは日本の食文化の国際競争力そのものを失うことに直結します。
「中国料理でよく使う食材として干しアワビがあります。アワビは江戸時代、幕府が外貨を稼ぐために中国に輸出をはじめ、そこから香港などで食文化として形成されていった歴史があります。この食文化が香港に大きな価値を生み出し、私たちは高いお金を出して日本のアワビを香港から逆輸入せざるを得ない構造になっています。食材輸出を進めていくということは食文化の輸出でもあり、その結果として担い手を含めて文化が、そして国益が失われていくということにならないか危惧しています。
■代表理事 佐々木ひろこ コメント

Chefs for the Blue の政策提言は、料理界の「魚が手に入らない」という危機感を出発点に、水産業の現状を見つめ分析することから生まれました。昨年5月のアンケートに集まった全国1,301名の声には、不安だけでなく、日本の海と魚食文化への誇り、未来への希望が込められています。水産物は、産地から外食まで価値が7.2倍に高まる高付加価値な商材であり、唯一「自給可能」なタンパク質源です。それなのに、この価値は長く「見えない経済」として過小評価されてきました。①科学的な資源管理、②国内付加価値額のKPI化、③資源配分の適正化、④トレーサビリティの整備、⑤外食・観光との連携によって、政府目標の達成も夢ではありません。海に生かされてきた島国の民である私たちが、この豊かさをどう守り、どう次世代へつなぐのか。100年先の食卓を守るため、国・漁業者・流通・料理人が手を取り合えることを、心から願っています。
■記者発表会の概要
【日時】 2026 年 5 月 18 日(月)
13:00〜 藤田水産庁長官に提言書提出、意見交換 於)農林水産省内 水産庁長官室
15:50〜 鈴木農林水産大臣に提言書提出 於)農林水産省内 農林水産大臣室
16:30〜 記者発表 於)TKP 新橋カンファレンスセンター
登壇者:
代表理事 佐々木 ひろこ
岸田 周三(理事/【カンテサンス】オーナーシェフ)
杉田 孝明(【日本橋蛎殻町すぎた】主人)
坂本 健(理事/【チェンチ】オーナーシェフ)
林 亮平(【てのしま】主人)
川田 智也(【茶禅華】オーナーシェフ)
<一般社団法人 Chefs for the Blue について>
シェフス フォー ザ ブルー は 2017 年 5 月、日本の水産資源の現状に危機感を抱いたフードジャーナリストの声がけに応え、東京のトップシェフ約 30 名が集まった海についての深夜勉強会を起点とする料理人チームです。2021 年 9 月には京都チームも発足。「日本の豊かな海を取り戻し、食文化を未来につなぐ」ことを目指し、NGO や研究者、政府機関などから学びを得ながら、持続可能な海を目指す自治体・企業との協働プロジェクトや各種ダイニングイベント、海の未来を担う次世代の教育事業、飲食業界を中心とした海の学びのためのコミュニティ運営、政府への政策提言など、様々な活動を行っています。
【概要】
・法人名:一般社団法人 Chefs for the Blue (シェフス フォー ザ ブルー)
・設立日:2018 年 6 月 6 日 コックさんの日(活動開始は 2017 年)
・住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-7-13 東急アパートメント B1
・代表理事:佐々木ひろこ フードジャーナリスト
・理事: 【カンテサンス】 オーナーシェフ 岸田周三
【シンシア】オーナーシェフ 石井真介
【ノーコード】オーナーシェフ 米澤文雄
【チェンチ】オーナーシェフ 坂本健
「シーフードレガシー 」代表取締役社長 花岡和佳男
・相談役:【菊乃井】主人 村田吉弘

