神経と筋の繋がりに着目した新たな運動機能ケアの可能性を示唆 シチコリンにより、神経筋接合部形成促進と運動神経の活動同期性が向上することを確認

キリンホールディングス株式会社のプレスリリース

 キリンホールディングス株式会社(社長 COO 南方健志、以下キリン)のヘルスサイエンス研究所(所長 村島弘一郎)は、運動機能の根幹を担う神経と筋の繋がりに着目し、シチコリン※1が神経筋接合部(Neuromuscular Junction、以下NMJ)※2に及ぼす影響および運動神経の同期的発火(複数の神経細胞が同じタイミングで活動する現象)に及ぼす影響について検討しました。

 本研究により、シチコリンによって、NMJ形成に関わる遺伝子発現およびアセチルコリン受容体(以下、AChR)クラスター形成が促進されること、さらに運動神経の同期的発火を促進することが確認されました。

 本研究成果は、2026年7月25日(土)~28日(火)に開催される「NUTRITION 2026」※3にて発表しました。

※1 神経細胞膜の構成成分であるホスファチジルコリンの前駆体として知られ、神経機能に関する研究が進められている成分。キリングループである協和発酵バイオが製造し、1990年代初頭から欧米を中心にグローバルに販売している。世界中で脳機能をサポートするサプリメント・飲料や、医薬品の成分として用いられている。

※2 運動神経と筋線維の接合部

※3 NUTRITION 2026(Present Your Science at NUTRITION 2026 – American Society for Nutrition

 超高齢化の進展や健康志向の高まりにより、加齢に伴う運動機能の低下をいかに抑制し、日常生活の質(QOL)や身体パフォーマンスを維持するかが重要な社会課題となっています。加えて、近年、筋肉量を維持・増加しても筋力が低下する現象が報告されています。この現象は「ダイナペニア」と呼ばれ、転倒・要介護リスクを高める重要な要因とされています。この現象の一因として、運動神経と筋肉の連携機能の低下が関与している可能性が指摘されています。

 こうした中、運動神経と骨格筋をつなぐNMJは、筋力発揮や身体動作の制御において重要な役割を担うことが知られています。NMJを適切に保つことは運動機能の質の向上につながり、加齢に伴う運動機能低下に対する影響だけでなく、スポーツやレジスタンストレーニングにおけるパフォーマンス発揮においても重要であると考えられます。

 本研究ではこのNMJに着目し、神経保護作用が報告されているシチコリンについて、NMJ形成への影響を評価しました。具体的には、マウス由来の筋芽細胞と運動ニューロン様細胞の共培養による神経筋モデル細胞を用い、シチコリン添加によるNMJ形成に関連する遺伝子発現およびAChRクラスター形成への影響を検討しました。その結果、シチコリンの添加により、NMJ形成に関与する遺伝子の発現が有意に増加するとともに、AChRのクラスター形成が促進されることが確認されました。

 さらに、iPS由来運動神経細胞を用いて、シチコリンが神経機能に与える影響について評価を行いました。その結果、運動神経の同期的発火がシチコリンにより促進されることが示されました。運動神経の活動同期性は筋出力の調整や瞬発力発揮に関与する神経メカニズムの一つとして考えられています。

 これらの結果から、シチコリンが運動神経から筋へのシグナル伝達に関与するNMJの形成を促進すること、運動神経の同期的発火を促進することが確認され、素早い筋力発揮に役立つ可能性が示されました。本研究成果は、従来の筋肉量中心のアプローチとは異なり、「神経と筋の連携」という観点から運動機能の維持・向上にアプローチする新たな基礎的知見となるものです。

■研究背景・目的

神経筋接合部(NMJ)は運動神経と筋線維の接合部であり、運動神経からの信号を筋肉に伝えることで筋力発揮や運動能力に重要な役割を果たしています。シチコリンには神経保護作用があることが知られていますが、NMJに対する効果は不明でした。そこで、本研究では、NMJ形成に対するシチコリンの影響を検証することを目的としました。

■研究方法

マウス由来の筋芽細胞(C2C12)と運動ニューロン様細胞(NSC-34)を共培養し、神経筋モデル細胞を作成しました。神経筋モデル細胞に対して、シチコリンを添加し、NMJ形成に関わるDok7、CHRNE遺伝子の発現解析を行いました。さらに、NMJ形成を表す指標であるアセチルコリン受容体(AChR)のクラスター形成を評価するため、AChRの免疫染色を行いました。

また、iPS由来運動神経細胞を用いて、シチコリンが神経活動に与える影響について微小電極アレイを用いて評価しました。

■研究結果 

①シチコリンにより神経筋モデル細胞のNMJ形成遺伝子発現が増加することを確認

シチコリンの添加により、NMJ形成に重要な役割を果たすDok7遺伝子、AChRのサブユニットを構成するCHRNE遺伝子の発現が有意に増加することが示されました。

図1. 神経筋モデル細胞におけるシチコリンによるNMJ形成に関与する遺伝子発現の増加

②同モデル細胞へのシチコリン添加により、AChRクラスター形成が有意に増加することを確認

①の遺伝子発現の結果と一致して、シチコリン添加によりAChRクラスター指標(数、面積、強度)が有意に増加し、AChRクラスターの増加が確認されました。

図2.AChRを赤く染色した神経筋モデル細胞
図3.神経筋モデル細胞におけるシチコリンによるAChRクラスター形成指標の増加

③iPS由来運動神経細胞へのシチコリン添加により、神経発火同期性が向上することを確認

シチコリン添加により、運動神経の発火同期性を示す、Synchrony Indexが有意に向上しました。

図4.iPS由来運動神経細胞におけるシチコリンによる同期的発火の促進

■得られた示唆

神経筋モデル細胞へのシチコリン添加によって、運動神経から筋へのシグナル伝達に関与するNMJの形成を促進すること、iPS由来運動神経細胞へのシチコリン添加によって運動神経の同期的発火を促進することが確認されました。これは、シチコリンが運動神経-筋の連携を強め、瞬発力や筋肉の協調性など「動きの質」の向上につながる可能性を示す重要な知見です。

■今後の展望

今後も、神経と筋の連携に着目した研究をさらに発展させ、高齢者やスポーツ分野における運動機能の維持・向上を通じて、健康寿命の延伸やQOLの向上にも貢献できるよう、取り組んでいきます。

 キリングループは自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、心豊かな社会に貢献します。

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