月桂冠総合研究所×奈良先端科学技術大学院大学 産学連携による酵母研究の成果、米科学雑誌に掲載

月桂冠のプレスリリース

月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)総合研究所は、奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大;学長・横矢直和、奈良県生駒市)との共同研究により、甘みを呈するアミノ酸・プロリンの清酒酵母における高生産メカニズムを解明しました。本研究は、奈良先端大バイオサイエンス領域の高木博史教授が研究統括者を務める農研機構生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」の支援を受けて実施したもので、酵母の育種や清酒醸造試験、遺伝子や代謝物の解析を月桂冠が、変異型酵素の解析や代謝物の解析サポートを奈良先端大がそれぞれ担当しました。産学連携により、学術的に新たな知見と産業に応用できるシーズを生み出したこの研究成果は、米国で発行されている産業微生物とバイオテクノロジーに関する科学雑誌「Journal of Industrial Microbiology&Biotechnology」に掲載されました(2020年8月3日、https://rdcu.be/b54bd、オープンアクセス)。プロリンは甘みを呈するアミノ酸であるとともに、保湿性や抗酸化作用などの生理機能を持つことが知られており、今回の研究成果を応用し、プロリンを多く含む清酒や酒粕が開発できれば、製品への機能性の付与による高付加価値化や市場での差別化も期待でき、今後の実用に結びつけていきたいと考えています。

 

今回の研究では、一般的に使われる清酒酵母(K-9株)から育種したプロリン高生産株(K-9-AZC株)の遺伝子配列を解析したところ、酵母のプロリン生産を調節するガンマグルタミルキナーゼという酵素の遺伝子にこれまでに知られていない新たな変異点を見出しました。さらに、プロリン高生産株ではその遺伝子変異のため、通常の清酒酵母で見られる、環境中にプロリンが存在するとプロリンを生産できなくなる「フィードバック阻害」を受けずに、プロリンを生産し続けられるというメカニズムが極めて強く働いていることを突き止めました(下図、横軸は環境中のプロリン濃度、縦軸はプロリン生産に関与するガンマグルタミルキナーゼ酵素の活性を示しています。一般的な清酒酵母の酵素・「WT」に比べ、プロリン高生産株の酵素・「Q79H」では、酵素反応液中のプロリン濃度が高くなっても活性が低下しませんでした。図は論文中のFig.1より引用)。

 

 

 

さらに、プロリン高生産株の遺伝子変異による効果が醸造環境下でも維持され、清酒もろみ中にプロリンが高濃度に含まれることも確認し、そのメカニズムも明らかにすることができました(右図、横軸は清酒もろみの経過日数、縦軸は清酒もろみ中のプロリン濃度を示しています。通常使われる清酒酵母・K-9に比べ、プロリン高生産株・K-9-AZCでは、もろみ中にプロリンが高濃度に含まれていました。図は論文中のFig.2より引用)。

 


今回のプロジェクトは、奈良先端大と月桂冠とが互いの強みを活かした産学連携により、学術的な発見と産業に利用可能なシーズの創出とを同時に実現する研究結果となりました。

 

●論文掲載

雑誌名:Journal of Industrial Microbiology&Biotechnology

タイトル:Effects of a novel variant of the yeast γ-glutamyl kinase Pro1 on its enzymatic activity and sake brewing

著者:村上 直之1、小髙 敦史1、磯貝 章太2、蘆田 佳子2、西村 明2、松村 憲吾1、秦 洋二1、石田 博樹1、高木 博史2(1 月桂冠・総研, 2 奈良先端大・バイオ)

掲載日:2020年8月3日

DOI:10.1007/s10295-020-02297-1

URL:https://rdcu.be/b54bd

 

●月桂冠総合研究所

1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から設立した業界初の研究所である「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます (所長=石田 博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

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