ラーメン店の倒産、初の年間40件超えで過去最多 コロナ禍で客足戻らず厳しさ浮き彫りに

TDBのプレスリリース

  1. 2020年のラーメン店の倒産は46件となり、前年を10件上回って過去最多を更新した

  2. コロナ禍で外食需要が急減した中でも、Go To イート事業やテイクアウトサービスの拡充、消費者のニーズの変化などで一部の業態では需要が回復した。しかし、麺類業態の回復は依然として鈍く、ラーメン(中華そば)は10月時点でも前年を下回る状況が続いている
  3. 首都圏などでは飲食店の営業が20時までに制限されるなど厳しさが続くが、外食としてのラーメンの魅力は依然高い。デリバリーや通販などで、潜在的な顧客ニーズを引き出せるかがカギとなる

 

ラーメン店の倒産が初めて40件を上回った(ラーメン店の倒産件数 推移)ラーメン店の倒産が初めて40件を上回った(ラーメン店の倒産件数 推移)

ラーメン店の倒産が大幅に増加した。帝国データバンクが調査した結果、昨年1~12月の間に発生したラーメン店の倒産は46件に達した。2019年の36件を10件上回っているほか、過去20年間でも最多を更新。倒産が年間40件を超えたのは2020年が初めてとなり、コロナ禍でラーメン店の厳しい経営環境が改めて浮き彫りとなった。

ラーメン業態では、これまで参入障壁の低さを背景に様々な味や特徴を持つ新規店が次々とオープン。全国で2万店にも上るラーメン店同士の消耗戦が年々熾烈化したほか、原材料費や人件費などのコストアップ、さらには「1000円の壁」といった消費者心理も背景に低価格・薄利経営での体力勝負が続いたことで、「六角家本店」(神奈川)など老舗店でも経営破綻する遠因にもなっていた。こうしたなか、2020年はコロナ禍で外出自粛が広がったことで集客力が急激に低下するなど、経営環境は一層悪化。豚骨ラーメン店の「長浜将軍」(福岡)など、新興店から人気店、チェーン店でも経営が行き詰る事例が相次いでいる。

“Go To”開始も客足の回復鈍いラーメン店、大手チェーンも減収・赤字予想が相次ぐ

他の外食業態が回復するなか、ラーメンなど麺類は苦戦(外食への支出額推移)他の外食業態が回復するなか、ラーメンなど麺類は苦戦(外食への支出額推移)

2020年の外食業態をめぐっては、コロナ禍での外出自粛、所得の落ち込みなどを背景に需要が急減。総務省の家計調査によると、昨年の外食支出額はGo To イート事業が開始した10月こそ前年並みに改善したが、新型コロナが国内で本格的に感染拡大した3月から9月にかけては前年を下回って推移。特に4月は前年比6割超の大幅減となるなど、非常に厳しい経営状態を強いられてきた。

 ハンバーガーやすし、個食ニーズをとらえた焼肉などの業態では、テイクアウトやGo To事業による需要増を背景に前年を上回る好調ぶりを見せた。しかし、ラーメンなど中華そばは3月以降前年を下回る水準が続くなど、麺類業態全体の不振が鮮明となっている。ラーメン店はもともと狭小な店舗が多く、コロナ禍以降は各店とも席同士の間隔をあけるなど感染対策を念入りに進めてきた。しかし、「人の出足が鈍い」といった声がラーメン店からあがるなど想定以上に客足の戻りが鈍かったこと、ラーメン自体が日常食で単価が1000円を下回るなど他に比べ安価で、商品単価が高いほど還元額の高いGo To 事業の恩恵が受けにくかったことなどが、ラーメン需要の回復が遅れた要因の一つに挙げられる。

こうした経営環境も背景に、大手ラーメン店でも業績面で苦戦を強いられている。上場する主要ラーメンチェーンのうち、4社が20年度決算の前期比減収・経常赤字を予想。低価格ラーメンチェーンの幸楽苑と日高屋は、それぞれ通期で前年比2割超の大幅減収となる見通しだ。なかでも日高屋は、上場以降で初めて当期純利益が赤字に転落する。北陸地方を中心に「8番らーめん」を展開するハチバンは前年比3割の減収、JBイレブンも同1割超の減収を見込んでいる。[飯島大介1] いずれの店舗も、新型コロナによる限定営業や休業による客足減少の影響を大きく受けるなどして、例年に比べて厳しい業績推移を織り込んでいる。
 

 

「コロナ禍でも食べたい」外食1位はラーメン、潜在ニーズをいかに引き出すかが今後のカギ

写真=幸楽苑(上)と日高屋(下)の店舗写真=幸楽苑(上)と日高屋(下)の店舗

新型コロナの感染拡大が深刻化し、緊急事態宣言の発出で飲食店の営業時間が20時までに制限されるなど、飲食業態全体で経営環境は今後一層厳しくなる。こうしたなか、ラーメン店でもこれまでの店内飲食を前提とした店舗運営から、コロナ禍で店舗での飲食を敬遠する顧客が持つ潜在的な「ラーメンニーズ」をいかに引き出して獲得するかが、各店の売り上げ回復に向けた大きなテーマとなってくる。大手グルメサイト「ホットペッパー」が昨年8月に行った調査[飯島大介1] では、デリバリーやテイクアウトを除いた「外食」で食べたい1位はラーメンとなるなど、外食における魅力度が依然として高いことが明らかになっている。お店でラーメンを楽しみたくても我慢せざるを得ない、消費者が抱える「寂しさ」も背景にある。

そのため、既にソーシャルディスタンスを意識した店内づくりによる集客以外にも、デリバリーの取り扱いやEコマース事業といった、店舗運営に捉われない新たな販売チャネルの開拓が大手・中小ラーメン店を問わず急ピッチで進んでいる。ラーメン店「一風堂」を運営する力の源HDは、デリバリーへの対応を昨年から順次スタート[飯島大介2] 。従来は、ラーメンのデリバリーは麺の伸びやスープの運搬が難しいといった課題があり、そのため地場ラーメン店の出前サービスなどにとどまっていた。しかし、先行してデリバリーの活用を開始した「町田商店」(ギフト)などの業績が好調なこともあり、チェーン大手でも需要取り込みを狙ってデリバリー業態へのシフトを本格化させている。

内食需要の拡大を背景とした、通販事業への進出も進む。煮干しラーメンで有名な「ラーメン凪」を運営する凪スピリッツは、全国の有名ラーメン店の商品をネット販売する新規事業をスタート[飯島大介3] 。ラーメン店の経営をサポートするオイシードも、麺料理専門通販サイト「わーるどめん」を開設し、自宅でも本格的に有名店のラーメンが楽しめるようになっている。

ファストフードなど他業態とのテイクアウト市場とも競合が予想されるものの、幅広い層から親しまれているラーメンの人気は依然として高く、コロナ禍の今でも潜在的な需要が見込まれる。飲食自粛の緩和は当面見通せないなか、脱店舗運営の新しい「ラーメンビジネス」をどう確立できるかが、今年のラーメン業態の先行きを占う重要なキーワードとなる。

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