アトラス日本合同会社のプレスリリース
アトラスバイオに所属する、人と微生物の関係を研究しているロス・カーヴァー・カーターが1月13日に執筆した、飲酒が消化器や腸内フローラに与える影響に関する調査レポート
https://atlasbiomed.com/blog/dry-january-the-lowdown-on-alcohol/の抄訳を発表しました。
カーターはこのレポートの中で、英国で実施した「年末年始飲酒コントロールキャンペーン(Dry January)」が有効だったことを上げています。コロナ禍の影響で、これまでと比較して会食や飲酒機会の回数は制限されているものの、家での飲酒が増えています。そこでこのキャンペーンを展開したところ、キャンペーン参加者のアルコールの摂取量が減り、睡眠改善からコレステロールの減少など、健康上の改善につながったという調査結果が出ました。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4684010/)
腸の専門家であるカーターは、アルコールが消化器の健康にどのように影響を与えるかを様々な研究論文を通じて検証しました。たとえば、彼の好物であるKombucha (紅茶キノコ)を飲むと、アルコールが腸に与える影響を低減できるとのことです。
アルコール乱用と腸の健康
慢性的な飲酒がアルコール依存症の人の腸内フローラと消化器系の健康をどのように変化させるかを調べた研究があります。過度なアルコール摂取は、腸内フローラの多様性を低下させ、腸内膜の透過性を高め、体内で炎症を誘発することが分かっています。このような腸肝軸の乱れは、肝硬変やアルコール性肝炎と関連しています。
とはいえ、適度に赤ワインを飲むと、有益なバクテリアの餌となる微量栄養素であるポリフェノールが含まれているため、微生物の多様性が増す可能性があります。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31472153/)
腸管透過性の上昇と炎症の関連性
過度の飲酒は腸に炎症を引き起こし、腸管透過性(IP)を高める可能性があります。ある研究(https://www.drinkaware.co.uk/facts/health-effects-of-alcohol/mental-health/alcohol-dependence)では、アルコール依存症の人は、細胞の隙間をふさぎ、体内の水分の蒸発や体外からの異物が侵入を防ぐ役割を果たす密着結合(タイトジャンクション)細胞が緩んおり、IPが増加していることが示されています。
その結果、菌体内毒素や細菌が腸の内壁から血流に入り込む可能性があります。これらの分子は免疫反応を引き起こし、体内で炎症性サイトカイン(炎症の重要な調節因子で細胞から分泌される低分子のタンパク質の総称)を放出するように促します
長期間にわたる低レベルの慢性炎症は、冠状動脈性心臓病や特定の癌を含む複数の疾患を発症する可能性を高めます。さらに、アルコール依存症の結果として、うつ病、不安神経症、欲求不満が増加すると言われています。(https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19490976.2020.1758010)
アルコール依存症でIPが増加している人は肝臓疾患のリスクが高く、アルコール摂取が臓器障害に関与していることが示唆されています。また、過度の飲酒は、概日リズムと呼ばれる体内時計に影響を与えるといわれており、これが長期化するとIPが増加し、低悪性度炎症が引き起こされる可能性があります。腸内細菌はアルコールの代謝を助けます。これは、人それぞれアルコールへの耐性が異なる多くの理由の一つです。
IPがアルコール性肝疾患の発症に関与していることは明らかですが、アルコール依存症の患者さんのうち、リーキーガット(腸 の粘膜に穴が空き、異物(菌・ウイルス・たんぱ く質)が血管内に漏れだす状態にある腸)を発症しているのはごく一部といわれています。(https://atlasbiomed.com/blog/what-is-leaky-gut-and-lifestyle-causes/)そのため、内毒素血症や臓器不全の発症には他の要因が存在することになります。
腸内細菌はアルコールの代謝を助けます。これは、人それぞれアルコールへの耐性が異なる多くの理由の一つです。
腸内フローラの多様性の低下
肝臓疾患の発症に関与していると思われるもう一つの要因は、アルコールに関連する「腸内毒素症(腸内細菌叢を構成する細菌種や細菌数が減少することにより,細菌叢の多様性が低下した状態)です。つまり、慢性的なアルコール摂取は、微生物の多様性を低下させ、有益な細菌を枯渇させる可能性もあるのです。腸内フローラのバランスの崩れは、以下のような様々な疾患の要因となります。
- 不安
- うつ病
- 肥満
- 炎症性疾患
- 慢性疲労
ある研究(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4210345/)では、腸内毒素症がIPと関連していることが示され、特に腸内細菌の1種であるルミノコックス科の細菌が不足している場合にその傾向が見られます。IPは全身に炎症を引き起こし、気分と消化の両方に影響を与える可能性があります。ヒトを対象とした研究はまだ少ないのですが、腸内細菌の異常は、アルコール性肝疾患の発症にも関係しているとも言われています。
過度の飲酒は小腸内細菌過剰増殖症の可能性を高める
過度の飲酒は、小腸内細菌過剰増殖症(SIBO)の発症リスクを高めることが明らかにされています。これは、小腸に生息する細菌の数が増加するためです。この疾患は、腹部膨満感、腹痛、便秘、下痢などの消化器系の問題によって現れることがあります。
アメリカンカレッジ消化器科の研究 (https://www.sciencedaily.com/releases/2011/10/111031114949.htm) によると、適度な飲酒でもSIBOを発症するリスクが高まることが分かっています。これは、アルコールが腸の運動に影響を与えるからだと考えられています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11151864/)小腸は、波のような筋肉の収縮によって食物を移動させるプロセスです。慢性的な飲酒は、体内で作られる酵素や分泌液の量を減少させ、消化器系の問題を引き起こす可能性があります。これは、消化を妨げ、腹部膨満感、下痢、ガスなどの症状を引き起こす可能性があります。
飲酒時に空腹を感じる理由
お酒を飲むと、抑制が効かなくなり、判断力が鈍ります。怪しげなメールを送ってしまったり、恥ずかしい動画を公開してしまうのはそのせいです。お酒は楽しいものですが、この抑制の効かない状態は、健康面でも良くない結果を招きます。例えば、飲酒は喫煙やジャンクフードへの欲求を高めます。これらはいずれも腸内細菌に大打撃を与えます。
ある研究(https://www.cjhp.org/volume16Issue1_2018/documents/79-90_CJHP2018Issue1_Kruger.pdf)では、酔った人は野菜や果物よりも、ピザやハンバーガーなどの加工されたファストフードを選ぶ傾向があることが明らかになりました。飲酒の翌日でも、この研究の参加者はファストフードに手を出す傾向がありました。
これらの食品は、脂肪、精製された糖分、塩分を多く含み、研究者が西洋式の食事と呼ぶものに共通しています。複数の研究により、これらの食品は生殖機能障害や多くの慢性疾患と関連していることが分かっています。時折ファストフードをテイクアウトし、食べる分には害はありませんが、頻繁に食べたり、過度な飲酒したりすることは食生活の乱れにつながる可能性があるので注意が必要です。
赤ワインが健康にいい理由とは
赤ワインには微量栄養素の一種であるポリフェノールが豊富に含まれています。これらは抗酸化作用や抗炎症作用があることが示されているだけでなく、潜在的に腸内フローラに有益なバクテリアの餌となる可能性もあります。
2020年にキングス・カレッジ・ロンドンで行われた研究 (https://www.kcl.ac.uk/news/red-wine-benefits-linked-to-better-gut-health-study-finds)では、914人の女性双子をグループに分け、赤ワイン、白ワイン、ビール、サイダー、スピリッツを摂取してもらいました。研究終了時には、赤ワインを飲んだ人は、飲まなかった人に比べて腸内フローラの多様性が高まっていました。週に1回、グラス1杯を飲むだけで十分な効果があることが証明されました。研究者は、推奨されるガイドラインを越えて飲むと、赤ワインがもたらすかもしれない健康上の利点が損なわれる可能性が高いと注意を促しています。
別の研究(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31472153/)では、同じ研究者が、3000人以上の対象者を3つのグループに分けて調査したところ、赤ワインを飲む人は腸内フローラの多様性が増加することを観察しました。これは、ブドウの皮に含まれるポリフェノールによる赤ワインのプレバイオティクス効果をさらに裏付けるものです。
キングス・カレッジ・ロンドンのティム・スペクター教授は、赤ワインの潜在的な健康効果について以下のように語っています。「ノンアルコールの赤ワインも同様にポリフェノールのレベルが高いので、お酒が苦手な方もご安心ください。さらに、ダークチョコレートとお茶には、これらの有益な微量栄養素が多く含まれており、特にカカオ含有量が80%以上のチョコレートと緑茶には多く含まれています。」
節度ある飲酒のために
ここまで紹介してきた研究結果の多くは、アルコールの過剰摂取の影響に関するものでした。アルコールの過剰摂取が腸にダメージを与えることは否定できません。とはいえ、適度なアルコールは健康的でバランスのとれたライフスタイルのための要素の一つといえます。以下に消化器系の健康と豊かな生活の両方を実現するためのガイドラインを説明します。
最も重要なポイントは、毎週14単位を超えないようにすることです。14単位をアルコールに置き換えると、アルコール度数が13%のワインならグラス5杯分、5%ビールなら小ボトル8本分に相当します。男性の場合、1回に8単位以上飲むと暴飲暴食とみなされ、女性の場合は6単位以上となります。時折上記の単位を超えるのであれば問題ないでしょうが、推奨されるガイドラインの範囲内にとどめることをお勧めします。
英国の独立系の慈善団体「Drinkaware aware」は、飲酒時の単位とカロリーの計算機(https://www.drinkaware.co.uk/tools/unit-and-calorie-calculator)を提供しているので興味のある人は使ってみてください。
飲酒の際には水とアルコール飲料を交互に飲んで、水分補給をするのがよいでしょう。アルコール飲料で喉の渇きを癒すのではなく、水分補給をしてから飲むようにしましょう。最後に、飲酒の翌日は食事に気を配り、腸に栄養を与える食品を選ぶようにしましょう。
IBSの方は、下痢や腹痛などの症状を悪化させる可能性があるため、アルコールの摂取を控えめにするようにしてください。
まとめ:
- アルコールの過剰摂取は、腸内フローラの環境を悪化させ、腸管透過性を高め、体内の炎症を誘発します。
- 慢性的な飲酒は、体内で生成される酵素や分泌液の量を減らし、消化器系の問題を引き起こす可能性があります。
- アルコールは私たちの抑制力を低下させるため、健康に影響のある喫煙やジャンクフードを選択させてしまうことにつながります。
- 赤ワインは腸内フローラの多様性の向上につながることがあるものの、健康ガイドラインを超えて飲むと、暴飲暴食と同等の悪影響を腸内にもたらす可能性があります。
- アトラスバイオメッドのアトラス遺伝子検査とレポートを活用すると、自分のアルコール不耐症の将来的な疾患リスクがわかります。アトラス遺伝子検査キットを使って現在の体の特徴を知ることをお勧めします。
注記:この考察レポートは情報提供のみを目的としたものです。専門的な医学的アドバイス、診断、治療を促したり、その代わりになるものではありません。
「アトラス遺伝子検査」
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「アトラス腸内フローラ検査」
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アトラスバイオメッドについて
アトラスバイオメッドは、2016年にイギリスで設立されたパーソナライズドヘルス企業です。遺伝子および腸内フローラ領域の最先端技術と、ユーザーの遺伝子、腸内フローラ、ライフスタイルデータを組み合わせることで、健康状態を多面的に把握します。それらをもとにパーソナライズされたアドバイスを提供し、健康に関する意識向上及びデータに基づいた意思決定を支援します。
アトラスバイオメッドの検査キットは、英国、欧州16か国、ロシア、そして日本で提供しています。アトラス合同会社はアトラスバイオメッドの日本の子会社です。