ライツ社のプレスリリース
堀江貴文さん監修のもと出版されている『まんがでわかる 絶対成功!ホリエモン式飲食店経営』(講談社)で、佰食屋はこんなふうに紹介されています。
・サービスを極限まで絞ることで売上を上げているお店
・飲食店の形は自分の人生に照らし合わせて決めることができる
この2行の冒頭、「サービス」と「飲食店」を「働き方」に変えるとこうなります。
・働き方を極限まで絞ることで売上を上げているお店
・働き方の形は自分の人生に照らし合わせて決めることができる
つまり、どれだけ儲かったとしても、「これ以上は売らない」「これ以上は働かない」。あらかじめ決めた業務量を、時間内でしっかりこなし、最大限の成果を挙げる。そして残りの時間(人生)を自分の好きなように使う、ということ。
飲食店関係者だけでなく、すべての働く人たちに、この2行に集約された佰食屋のビジネスモデル、働き方のすべてを共有したい。そんな思いで、この本は生まれました。
出版にあたり、本書の「はじめに」を全文公開いたします。
表紙
100食限定ランチのみ、残業ゼロの国産牛ステーキ丼専門店
たった10坪、14席。
夫婦で貯めたありったけの貯金500万円を使って、わたしたちの冒険は、はじまりました。2012年の冬、京都の観光地からは少し離れた住宅街で、一軒の飲食店をはじめたのです。
お店の名前は「佰食屋」。
ステーキ丼をはじめ、メニューは3つのみ。「1日100食限定」で、売り切れたら店じまいです。おかげさまで、平日でも土日でも、たくさんのお客様にお越しいただいて、あっという間に売り切れます。よく、こんなことを言われます。
「昼だけじゃなくて、夜も営業したらいいのに」「せっかくだから500食くらいつくればいいのに」。
でも、1日で売るのは絶対に100食だけ。はじめから、そう決めていたのです。
ステーキ丼
死ぬ前に食べたいと思った一杯
佰食屋の看板メニュー、新鮮で上質な国産牛を特製のごはんにのせたステーキ丼は、わたしの夫の自慢のレシピでした。
自宅で初めて夫がつくったものを食べたとき、本当にビックリしたのです。「うわ、めっちゃおいしい!」と。言葉が見つからないまま黙々と食べつづけ、ハッ! と気づいたときには、もう器の中が半分になってしまっていて……「あぁ、もうすぐ食べ終わってしまう」と、さびしささえ覚えました。
死ぬ前にはこの一杯を食べたい。このステーキ丼を独り占めしてしまうのではなく、みんなにも食べてもらいたい―。
そうやってはじめた佰食屋は、「すき焼き専科」「肉寿司専科」と合わせて3店舗を構え、いまでは年商1億円を超え、従業員は30名を数えるほどになりました。
そして、その全員が月に一度も残業することなく、退勤することができます。
中村朱美2
インセンティブは早く売り切ったら早く帰れる
わたしの名前は、中村朱美と言います。
京都生まれの京都育ち。生粋の京都人です。と言っても京都市の隣、亀岡市の出身なので、「亀岡は京都人とちゃう」と言われてしまいそうですが……!
佰食屋をはじめる前は、わたしも夫も、まったく別の業界で仕事をしていました。夫は不動産業、わたしは広報として専門学校に勤めており、学生時代も含めて、飲食店に勤めた経験はほとんどありませんでした。
「飲食店」と聞くと、「勤務時間が長い」「土日は休めない」「ギリギリの人数でお店を回している」といった大変なイメージを持つ人は多いでしょう。わたしも、同じイメージでした。
飲食店が儲かるのは土日です。でも、従業員からすれば平日より、お客様がたくさん来られる土日のほうが大変です。それなのに、土日に働いたからといって給与が高くなるわけではないし、閉店間際にお客様が来られても、「また今日も帰る時間が遅くなる」としんどくなるだけ。
つまり、どれだけ頑張っても対価が得られにくいのです。
これって、おかしくないですか?
長時間労働は当たり前、慢性的な人手不足。でも、どうせやるなら、自分が嫌なことを従業員にはさせない会社をつくりたい。
会社員なら通常、セールスとしてたくさん売ればインセンティブがつきます。だから同じように、飲食店にもなにかインセンティブのような「頑張ったら頑張ったぶんだけ自分に返ってくる仕組み」をつくれないだろうか。
そこで決めたのが、「1日100食」という上限でした。
1日に販売する数を決めて、「早く売り切ることができたら早く帰れる」となったら、みんな無理なく働けるのではないか、と思ったのです。
佰食屋外観
出した答えは売上を減らそう
「100食以上売ったら?」「夜も売ったほうが儲かるのでは?」。
そんなこと、何回も言われました。儲かるかどうかは別として、たしかに売上は上がるでしょう。
でも、ちょっと待ってください。そもそも、なぜ会社は売上増を目指さなくてはならないのでしょうか。
従業員のため? 会社のため? 社会のため? 実際のところ、経営者が「自分のため」に売上増を目指している、というのが多くの場合の真実ではないでしょうか。
売上を増やして、自己資金を貯めておかないと、いざというときに不安。いつ景気が傾くかもわからないから、なるべく利益を確保しておこう……。そんな、自分の不安をかき消すために。
「業績至上主義」にわたしは違和感を抱きます。
100食以上売ったら、たくさん来られたお客様をずっとおもてなしし続けなければなりません。それでは、気持ちの余裕がなくなります。夜に営業したら勤務時間が長くなります。そのわりに、そこまで大きな儲けは得られません。
佰食屋は、お客様のことだけを大切にするのではありません。いちばん大切なのは、「従業員のみんな」です。
仕事が終わって帰るとき、外が明るいと、それだけでなんだか嬉しい気持ちになりませんか? そんな気持ちを、従業員のみんなにも味わってほしい。
だから、佰食屋が出した答えは、「売上をギリギリまで減らそう」でした。
整理券
営業時間はわずか3時間半、14時30分には店じまい
朝の9時30分。ちらほらお客様が来られます。11時の開店なのに、どうしてそんなに早く?
答えは、佰食屋がお配りしている「整理券」です。
京都へは国内のみならず、海外からもたくさんのお客様が来られます。観光客の方も「佰食屋のステーキ丼を食べたい」と、わざわざお店にいらっしゃるのです。
お客様の大切な時間を、並ぶために費やしてしまうのはもったいない。そんな思いから、佰食屋では整理券を配り、「〇時〇分までにお越しください」とご案内しています。すると、待っている間も有意義に過ごしていただくことができます。
11時に開店。整理券を持ったお客様が続々と来られます。店内はあっという間に満席となり、その後ずっと客足は途絶えません。
14時30分。最後のお客様が食べ終わるのを待つのみです。お客様をお見送りして、本日の営業は以上。あとは片づけをして、みんなでまかないを食べて帰るだけです。
17時。従業員が帰りはじめます。どんなに忙しいときでも、夕方18時までには退勤できます。佰食屋の目標は、とてもシンプルです。本当においしいものを100食売り切って、早く帰ろう。たったそれだけです。
タイムカード
「従業員が働きやすい会社」と「会社として成り立つ経営」の両立
「従業員が働きやすい会社」と「会社として成り立つ経営」を両立させるには、どうしたらいいのでしょうか。
「どんなにすばらしい理念があったとしても、会社を存続させるためには、ビジネスをスケールさせ、利益を追求することが重要だ」。本音では、そう考える経営者は多いでしょう。「前年比を更新して、売上を増やしていこう」「そのためには、複数店舗を展開して、仕入コストを安くしていこう」。そう考えるのが、いわゆる一般的な経営者の仕事だと思います。
でもわたしは、その仕事を放棄しました。つまり、「売上増」や「多店舗展開」を捨てたのです。
むしろ、いまは、もう少し減らしてもいいのではないか、「3店舗で1億円ちょっと売り上げる」くらいがちょうどいいのではないか、と考えているくらいです。
会社の売上がどんなに伸びても、従業員が忙しくなって、働くことがしんどくなってしまったら、なんの意味もありません。しかも、業績が上向いたからといって、従業員にすぐ還元してくれる会社は、そう多くはありませんよね。
わたしも会社員時代、自分が成果を上げても、思うように給与は上がらず、「なんのために働いているのだろう」と心がすり減ることがありました。
利益を追求するより、わたしたち自身が「本当に働きたいと思える会社」をつくろう。佰食屋をはじめたとき、夫と二人でそう決めました。
そして、本当に働きたいと思える会社の条件は、「家族みんなで揃って晩ごはんを食べられること」。
それが、わたしたちにとって大切なことだったのです。
中村朱美1
脳性まひの息子を産んだわたしでも働ける会社
なぜ、家族との時間が大切なのか。そのきっかけは、子どもの存在でした。
27歳で結婚したわたしは、すぐにでも子どもが欲しいと思っていました。でも、思いとは裏腹に、不妊治療をはじめても、なかなか命を授かることができませんでした。
それなら、夫がよく話していた「いつか自分のお店を出したい」という夢を、「いつか」じゃなくて「いま」やろう。そうやって、なかば夫をたきつけるような形で、佰食屋をはじめたのです。
夫婦二人と、夫の母に手伝ってもらって、三人ではじめた小さな定食屋。お店を軌道に乗せようとがむしゃらに働きながらも、あきらめずに不妊治療は続けていました。そして2014年、やっとやっと授かったのが長女です。2年後には長男も授かりました。
ところが、予想外のことが起きました。8か月健診で、長男が脳性まひを患っていることが判明したのです。
5週間に及ぶ入院の間に、精密検査とリハビリ指導が行われました。いまでも長男は右半身が動きにくく、月に一度の通院と、朝と夕方と寝る前の3回、毎日欠かさずリハビリをしています。朝と夕方に長男のリハビリをするのが、わたしの役割です。
そんな我が家でも、どうしたら毎日笑顔で過ごせるだろう。
家族と過ごす時間を、なるべく長く確保したい。晩ごはんは必ず、みんなで一緒に食べたい―。それが、わたしたちの願いになりました。じゃあ、どうすればいいだろう、と逆算して、働き方をどんどん変えていったのです。そうやって、佰食屋は「わたしたちが本当に働きたい会社」になっていきました。
メニュー
働き方改革が叫ばれる何年も前に働き方を変えた
仕事は本来、人生を豊かにするためにあるもの。仕事だけが人生ではないはずです。
ですから佰食屋の従業員にも、仕事をなるべく早く終えて、それぞれ思い思いの時間を過ごしてほしい、と考えています。
これは、佰食屋の従業員からもらった実際の言葉です。
・「佰食屋に入社して初めて、子どもと一緒にお風呂に入れるようになった」
・「18時からはじまるバレーボールのサークルに参加している」
・「帰宅が早すぎて、本当に会社に行っているの? と奥さんに不思議がられた」
これらは、飲食業界で働く人にとっては、驚くべきことです。これまで「しょうがない」と思われてきたことを、変えていきたい。
そうやって、2012年のオープン時から、自分たちが働きたいと思える会社のあり方を追求してきました。働き方改革が叫ばれる、ずっとずっと前のことです。
そしてそれは、飲食業界以外にとっても、いま多くの人が求めている会社のあり方であり、理想的な働き方だと知り、わたしはこの本を書くことに決めました。
クレド
もう「頑張れ」なんて言いたくない「仕組み」で人を幸せにしたい
佰食屋では、「頑張れ」という言葉は使いません。
多くの会社では、上司が部下を叱咤激励します。売上が落ち込んでいると「頑張れ」、元気がないと「頑張れ」、連休前も、連休中も、連休明けも、いつも「頑張れ」……。そうやって、社長が役員へ、役員が部長・課長へ、そしてその部下へ……と、「頑張れ」のヒエラルキーが固定化しています。
でも、みんなもう十分、頑張っているじゃないですか。
お父さんもお母さんも、毎日大変な仕事に子育てに頑張っている。子どもたちも頑張って学校に行っているし、おじいちゃんもおばあちゃんも孫の面倒を見てあげたり、健康に気を遣ったりして、頑張っているんです。
だから、わたしたちは「頑張れ」という言葉を使うのではなく、「仕組み」で人を幸せにしたいのです。
ノート
専門家は口々に言った「アホらしい」「うまくいくわけがない」
「そんなの、うまくいくわけがない」「アホらしい」。
これは、わたしが佰食屋をはじめる2か月前に出場したビジネスプランコンテストで、審査員に言われた言葉です。
中小企業支援の専門家や大学教授の方々に、けちょんけちょんに言われました。
たしかに、わたしたちは飲食業界未経験でしたし、「ズブの素人」。けなされたときはさすがに落ち込みましたが「見てろよー!」と、逆に燃えました。これまでになかったアイデアだからこそ、専門家には受け入れてもらえなかった。だから、わたしたちがうまくいくことを証明してやろう、と。
人生って、そんなに長い時間働かなきゃいけないものでしょうか。
ゆっくり朝ごはんを食べてから出勤して、しっかり働いて、暗くなる前には帰る。そして、好きなことをする。それって、本来はごく普通の、誰もが叶えられるべき暮らしだと思うのです。それが、佰食屋の実現する、1日100食を売り切って夕方までには帰る、という働き方です。
この働き方をもっと日本に広めたい。そう考えて、わたしたちは新しい挑戦をはじめようとしています。
佰食屋2分の1
誰もが幸せな暮らしを諦めないですむように
佰食屋の事業は、日本経済新聞やNewsPicksなどに掲載していただくこともありますが、やっていることは、おそれ多いほど、とってもシンプルです。
本当にいいものを、必要な数だけつくって、売る。
だからこそ、どんな人にとってもわかりやすい仕組みが、この本にはたくさん書かれているはずです。
できれば今後、挑戦をしていく人たちには、佰食屋のいいところは真似してほしい。反対に佰食屋が失敗したことや、しなかったらよかったと思うことは、後悔しないように先に知っていてほしい。
できるだけ多くの人が「穏やかな成功」をつかめるように。
誰もが幸せな暮らしを諦めないですむように。
表紙
売上を、減らそう。
たどりついたのは業績至上主義からの解放(ライツ社刊)
著者:中村朱美
判型:四六版(たて188mm×よこ128mm)並製
頁数:264ページ
発刊:2019年6月14日(金)
定価:1500円+税
ISBN:978-4-909044-22-8
https://www.amazon.co.jp/dp/4909044221/
社員を犠牲にしてまで 「追うべき数字」 なんてない 。終わりのない業績至上主義に疑問を唱える一冊。