キリンホールディングス株式会社のプレスリリース
キリンホールディングス株式会社(社長 磯崎功典)の飲料未来研究所(所長 永嶋一史)は、大阪大学(総長 西尾章治郎)大学院基礎工学研究科流体工学グループの渡村友昭助教、杉山和靖教授らとの共同研究で、「コップに注いだギネスビールの泡が作り出す模様の発生メカニズム」の数式表現を、世界で初めて実現しました。本研究成果は、米国科学誌「Physical Review E」にて、6月8日(火)午前0時(日本時間)に公開されました。
※1 傾斜面を流れ落ちる液膜表面に生じる波のこと。典型的な例として、坂道や車の窓ガラスを流れる雨水の表面にみられる波が挙げられる。
さらに、ドラム缶のような非常に大きな容器をコップに見立てて炭酸水やコーラを注ぎ、相対的に密な状況を作り出せば、模様が現れる可能性があることが分かりました。模様の発生条件を理解し予想することで、発酵食品の品質管理や排水処理のさらなる効率化につながることが期待されます。
図1 “ギネスビール”の泡が 織りなす模様 コップの内壁が傾斜している部分において、泡の粗密分布が自発的に形成されます。この模様は泡がコップの上から下へと移動する際に現れます。
■研究背景
プレミアムスタウトビール「ドラフトギネス」の泡は、窒素ガスで作られているため、炭酸飲料と比べて寸法が1/10ほど(直径50μm程度)にしか成長せず、ゆっくりと浮上します。無数の泡が飲料中に長くとどまるため、クリーミーな味わいを楽しめると同時に、泡の集団が織りなす模様(図1)が特徴的です。しかし、泡の現象の発生について今まで一般的な法則を見いだすことができず、不思議な現象として扱われてきました。
■研究内容
泡の模様の有無や気泡の運動について一般的な法則を見いだすことは、飲料が実験対象であることから限られた条件下での実験となるため、不可能とされてきました。今回、本研究グループはスーパーコンピューターシミュレーションを用いて、“ギネスビール”に現れる泡の模様を約400条件にわたり再現し、泡と液体の運動方程式から数理モデル※2を作ることで、流れのスケーリング則※3を見いだすことに成功しました。
※2 数式を用いて、世の中の現象を記述・解析すること。流体の運動を記述する数理モデルの他、感染症の流行や交通渋滞の流れといった様々な現象を対象とした数理モデルが提案されている。
※3 2つの量の間の変換関係を主張する法則。両者が比例関係や「べき乗則」、「指数則」に従うなどを議論する場合に用いる。
■研究成果
本研究は、泡の模様の出現は「安定か不安定を表す指標(フルード数※4)」と「泡が密か疎かを表す指標(濃度界面の解像度※5)」という二つの要因によって決定することを明らかにしました。また、数式化により、コップの形に応じた模様の有無を予測することが可能となりました。
※4 流体の慣性力と重力との比を表す無次元数のこと。主に水面に生じる波の状態を表す際に使われる。フルード数が小さいと波が生じにくく、フルード数が大きいと波が生じやすい状態となる。
※5 泡同士の平均距離と液膜厚さの比を表す無次元数のこと。泡の浮上にともない傾斜壁面近傍は泡のない液膜が形成されるが、この液膜に対する泡同士の平均距離を比較し、泡が密にあるかどうかの指標としている。
キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します。