森永乳業株式会社のプレスリリース
森永乳業は、和歌山県立医科大学との共同研究などから、ラクトフェリンがウイルスに対する免疫応答において重要な役割を果たす、免疫細胞の一種であるプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)を活性化することを確認しました。今回の研究結果は、2021年12月6日(月)~10日(金)に中国・北京にてオンラインで開催された第15回国際ラクトフェリン会議にて発表しました。
※1Absolute Reports社 2021年版 当社の子会社、MILEI GmbH(ミライ社)の製造量シェア
1.学会概要
国際ラクトフェリン会議は、1992年にハワイで第1回会議が開催され、今回で15回目を迎えました。当社は第1回会議から毎回参加し、発表を行っています。今回の会議には、世界28か国の研究機関や企業から200名以上が参加し、ラクトフェリンの様々な側面について70以上の演題が発表されました。
国際ラクトフェリン学会WEBサイト:https://15thlactoferrin.com/
PDF版はこちら
https://prtimes.jp/a/?f=d21580-20211217-676235d0d64694b4e128a8677744004a.pdf
2.発表内容
1)概要
免疫細胞の一種であるプラズマサイトイド樹状細胞(以下pDC)は、ウイルスに対する免疫応答において重要な役割を果たします。今回、ラクトフェリンがpDCを活性化することを細胞実験で確認しました。この結果は、ラクトフェリンの幅広い免疫調節作用を説明するメカニズムの1つと考えています。
2)背景・目的
これまでの臨床試験から、ラクトフェリンの摂取が日常生活における呼吸器や胃腸などの様々な自覚症状を軽減することが報告されています。そのメカニズムとして、ラクトフェリンがNK細胞、T細胞、B細胞などの幅広い免疫細胞を活性化する可能性が考えられています。一方、血液の中にごく僅かに存在するpDCもまた、NK細胞、T細胞、B細胞などの免疫細胞を活性化することが知られています。したがって、ラクトフェリンがpDCを活性化して、その結果としてNK細胞、T細胞、B細胞などの免疫細胞が活性化している可能性が考えられます。しかしpDCは他の免疫細胞に比べてその数が非常に少なく、これまでの研究では、ラクトフェリンのpDCに対する作用はほとんど調べられていませんでした。そこで今回、このpDCに焦点を当てて、ラクトフェリンが血液中のpDCの活性に及ぼす影響を細胞実験で検討しました。
3)発表演題名
1.Effects of bovine lactoferrin on plasmacytoid dendritic cells in peripheral blood ex vivo.
(ウシラクトフェリンの生体外での末梢血中のプラズマサイトイド樹状細胞に対する効果)
2.Effects of bovine lactoferrin on the production of type I IFNs from plasmacytoid dendritic cells.
(ウシラクトフェリンのプラズマサイトイド樹状細胞からのI型インターフェロンの産生に対する効果)
4)研究内容
採取した血液から単核球(PBMC)を分離しました。PBMCにはpDCを含む様々な免疫細胞が含まれています。ウイルス由来の遺伝物質がある場合とない場合の2つ条件下において、PBMCの中のpDCの活性がラクトフェリン添加の有無でどのように変化するか検討しました。pDCの活性は3つの指標(CD86、HLA-DR、IFN-α)で評価しました。ウイルス由来の遺伝物質がない条件下においては、pDCの活性化の指標のうち、CD86はラクトフェリンを添加することで有意に上昇しましたが、残る2つの指標は変化しませんでした(図1)。
図1 PBMCの中のpDCの活性化指標(ウイルス由来の遺伝物質なし)
ウイルス由来の遺伝物質がある条件下においては、pDCの活性化の指標は、いずれもラクトフェリンを添加することで有意に上昇しました(図2)。
図2 PBMCの中のpDCの活性化指標(ウイルス由来の遺伝物質あり)
次に、pDC以外の免疫細胞の影響を排除して考えるため、PBMCから精製されたpDCを使用しました。ウイルス由来の遺伝物質がある条件下において、pDCの活性がラクトフェリン添加の有無でどのように変化するか検討しました。pDCの活性は2つの指標( IFN-α/β)で評価しました。その結果、精製されたpDCの活性化の指標は、いずれもラクトフェリンを添加することで有意に上昇しました(図3)。
図3 精製されたpDCのIFN-α/βの産生量(ウイルス由来の遺伝物質あり)
5)まとめ
これらの結果より、ラクトフェリンがpDCに働きかけ、pDCを活性化することが細胞実験で確認されました。このことから、ラクトフェリンはpDCを活性化し、その結果として幅広い免疫細胞を活性化している可能性が示唆されました。ラクトフェリンによるpDCの活性化は、ウイルス由来の遺伝物質が存在する時に特に強く観察されました。よって、ラクトフェリンはウイルスがいない時よりもウイルスがいる時にpDCを強く活性化し、ウイルスの排除に働くなど、免疫を適切に調節していることが推測されます。ラクトフェリンがヒトの免疫をどのように調節しているのかについて、引き続き、研究を進めてまいります。
<プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)について>
pDCは免疫細胞の一種で、血液中にごく僅かに存在します。pDCは病原体センサーであるToll様受容体(TLR)-7、9を持ち、取り込んだウイルス由来の遺伝物質を認識して、I型インターフェロン(IFN-α/β)という免疫物質を多量に産生します。このIFN-α/βがNK細胞、T細胞、B細胞などの免疫細胞を活性化します。また、活性化したpDCは細胞表面にHLA-DRやCD86という分子の発現を上昇させ、ナイーブT細胞を活性化します。これらの働きにより、活性化したpDCは自然免疫系、獲得免疫系の幅広い免疫細胞を活性化します(下記イメージ図)。
参考文献
Lande R et al. Ann N Y Acad Sci. 2010;1183:89-103.
<森永乳業とラクトフェリンの取り組み>
森永乳業は60年以上にわたりラクトフェリンの研究と商品への応用を進めてまいりました。現在では、世界の多くの企業が様々な食品に利用しています。また世界中の研究者達が、ラクトフェリンの人の健康に対する効果を研究しており、今後も多くの研究者、医師、及び大学等の研究機関と協力してラクトフェリンの様々な機能について研究を進めていく予定です。
尚、当社は企業の中で、世界で最も多くラクトフェリンに関する論文を発表しています※2。
※2 Elsevier社が提供するデータベース「SCOPUS」にて”lactoferrin”で検索(2021年11月時点)
以上